携帯獣(BL)−ブック

□あなたと噂になるのも悪くない
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「は? 俺とヒョウタが?」


しょうぶどころ。カウンター席。右隣りに腰掛けるヒカリから告げられた一言にオーバは目を丸くした。彼女は小さく頷く。


「最近いやに仲が良い。もしかしたらって噂です」

「……あー、なんで俺ってそっちの噂ばっかりたつかなぁ」

「言動がそれっぽいからだろ。女の影もまったくないし」


オーバの左隣に座っているデンジが、嫌そうな顔で言った。以前、というかいまでもなのだが、彼と噂になったことがあるからだろう。初めて耳にした時はこの世の終わりだと三日間寝込んでいた。今は多少なりと耐性が出来たらしく、やけ酒をすることはあっても寝込んだりはしない。


「確かに仲は良いけど……あいつは俺のことバカにしないし、一緒にいて気が楽なんだよなぁ。化石の話はちょっと困るけど本当に好きなんだなって微笑ましくもあるし」

「だから、そういう発言が誤解を生むっていってるんだよ。クソアフロ」

「ほらぁ、お前はそうやって俺を……だからヒョウタが」

「僕がなに?」


背後に聞こえた声に思い切り振りむく。不思議そうな顔で彼は首を傾げた。


「ヒョウタさんとオーバさんが付き合ってるんじゃないかって噂になってるって話です」

「えっ?」

「最近仲が良いらしいじゃないですか」

「…………」


ヒカリの言葉にヒョウタは無言になった。いま来たばかりだろうに、ドアに向かって歩いていく。彼女は驚いたように彼の背中を見送り、なにか不味いことを言ってしまったのだろうかとオーバとデンジの方に視線を移した。


「そりゃ、こんなアフロと噂になっているとかきいたら鬱になるだろ」

「なんでお前はそうやって俺を見下すようなこというかな……」

「は? お前はそういう存在だろ。つーか、謝ってこいよ。お前のせいでヒョウタが落ち込んだんじゃないか」

「ええー、だって遊んだりは同意の上だろ、どうして俺だけが」

「同意とか言い回しが気持ち悪いんだよ。いいからさっさと行け!」


腕を掴んだデンジは、そのままオーバを立たせ床に投げ飛ばす。彼の祖父がいる前で随分な扱いだが、慣れというものはおそろしく、酷いと感じているのはオーバ本人だけらしい。


「んだよいてぇなぁ」

「蹴られたいのか?」

「わかったよ、行けばいいんだろ行けば!」


オーバは腰をおさえて立ち上がると、そのままドアに向かった。そのままプテラに乗って飛び立った可能性もあるが、まだ近くにいることも考えられる。だとすれば225番道路のほうに向かった可能性が高い。そう踏んで、彼は225番道路へと足を進めた。


「……あっ、ヒョウタ!」

「オーバ。どうしたの?」

「どうしたっていうか、デンジがお前に謝って来いって」

「ええっ、なんで?」


不思議げに笑うヒョウタを見て、どうやら怒っているわけではないと知る。相手がオーバだとか以前に、噂の相手が男のだということにちょっと戸惑っただけかもしれない。そう思うと何故か気が楽になった。


「よかった。思ったより気にしてないみたいだな」

「噂のこと? ああ! そっかごめんね、あんなふうにいなくなったから心配させちゃったのか。でも、オーバに謝れっていうのは違う気がするけど」

「だよな! ったくデンジのやつ、俺ばっかり悪者にしやがって」

「災難だねぇ。でもデンジって基本的に他人に無関心だし、そういうことするってことは好かれてる証じゃないのかな。人付き合い苦手だからどうしていいか分からないんだよ。オーバはいい友達だよね」

「……ヒョウタ! おまえいい奴だなぁ!!」


感激して抱きつくオーバにヒョウタは、こんなところ見られたらますます噂に拍車がかかるよ、と苦笑した。それもそうだなと、彼は身を離す。


「俺のこういう行動が誤解の発端かもなぁ。デンジが俺に謝れっていうのも一理あるのかも。悪かったな」

「謝らないでよ。……それにね、オーバと噂になるのも悪くないかなってちょっとだけ思うんだ」

「へっ?」


思わず変な声が出る。頬が少し赤くなるのを感じた。ヒョウタは慌てたように言葉を紡ぐ。


「あっ、変な意味じゃなくて! えーっと、なんて言ったらいいのかな」


顎に手を当てて悩むような仕草。うーんと唸る彼の横顔を見つめながら、引かない熱といつもよりはやく動く心臓に、やばいとオーバは感じていた。
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