携帯獣(NL)−ブック
□俺様ヘタレな彼のセリフ
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【この俺を誰だと思ってる】
「おい、そこのお前」
しょうぶどころへ向かう途中。デンジは見慣れないトレーナーの背中に声を投げかけた。茶色の長い髪。白い帽子。少女はくるりと彼の方を向いた。赤いスカートがひらりと舞う。
「なぁに?」
「俺と勝負しろ」
トレーナー同士。急なバトルの申し込みは珍しいことではない。とは言え、デンジの言い方は少々威圧的だった。知っている者なら呆れ、知らない者なら萎縮するか驚くか、もしくはムッとするか――けれど、彼女は違った。ふわりと微笑む。
「いや」
「拒否は認めない」
「認めてくれなくていいもん。いまは散歩したい気分なの。ね、フシギダネちゃん」
デンジは気がつかなかったが、少し離れたところにフシギダネがいた。名前を呼ばれたフシギダネは嬉しそうに彼女に駆け寄り、足に擦りつく。
「お兄さん、デンジって人でしょう?」
「知ってるのか?」
「うん。グリーンが持ってる写真に写ってたもの」
「グリーン……ああ、トキワのジムリーダーか」
「そう。そのグリーン。幼馴染なの。ねぇ、デンジさんもお散歩しよう」
「いや、俺は」
断る前に彼女の手がデンジの右手を掴んだ。隣に並んだ彼女は、強引に歩き出す。
「おい。俺の要求は無視して、自分の我は通すのか」
「だって、こんなにいい天気なんだよ?」
まったく理屈が通っていないが、ふわりと微笑む彼女に反論できず、光が差す草むらを進んだ。