携帯獣(捧げもの/頂きもの)−ブック

□波導使いと少年と
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「こんにちは」


広い草原で膝を抱えて座っている少年に声をかけた。振り向いた少年が帽子のつばを少し上げ、視線を合わせる。しかしその視線はすぐ、元の場所へと戻ってしまった。


「私はアーロン。君は?」

「……レッド」

「レッドくんか、よろしく」


隣に腰掛ける。許可は得なかったが、嫌がる様子はないので、たぶん大丈夫だろう。


「レッドくんはどうしてコチラ側に?」

「……知らない、気付いたらここにいた」

「そうか。でも、とても強い魂の持ち主みたいだね。この世界で、そのままの姿をたもてるのが、その証拠だ。もっとも見かけだけじゃなく、君の波導が教えてくれているけど」


レッドくんがコチラを向く。わけがわからない、そんな顔をしていた。


「失礼。私は波導使いでね」

「はどーつかい?」


いまままで淡々としていた口調が急に子供っぽくなった。いや、ぱっとみた感じ、年齢は十代前半だから、いままでのほうが落ち着きすぎていたといえるだろう。


「そう、波導使いだ。ただ使うだけじゃなく、相手のそれもわかるんだよ。もっとも、こちらの世界に来てからは、一定の距離に近づかないと感じられなくなってしまったんだが」

「……そう」


あ、また逆戻りだ。これが素なんだろうか。不思議な少年だ。


「そうだ、あれは何かな?」


宙に浮いているシャボン玉を指差す。私が尋ねたいのはシャボン玉そのものではなく、そこに映っている映像だ。この世界に浮いているシャボン玉は現を映し出す。私が尋ねたいのは、ピカチュウやコラッタが入っているボールのことだった。ここに来て長いが、いつの間にかあのようなものが出来ていた。尋ねようにも、まともに会話できる魂にお目にかかる機会もなく。


「……モンスターボール」

「モンスターボール?」

「ポケモンを捕獲するための……道具」

「そのポケモンってのは」

「……ピカチュウとかイーブイとかの……総称。ポケットモンスターの略称でもある。……持ち歩けるサイズに小さくなることができるから」

「なるほど。ありがとう」


レッドくんは小さく頷いた。沈黙が流れる。本当に不思議な少年だ。


「そういえば、君はどんなポケモンと一緒だったのかな?」

「ピカチュウ、エーフィ、カビゴン、フシギバナ、カメックス、リザードン」

「ふーん。私はルカリオなんだ」

「ルカリオ……?」


レッドくんが首をかしげる。いったいどうしたんだろう。


「知らない? ルカリオ」

「知ってる……けど、そうじゃなくて…………ここで待ってて」


言葉にしにくかったのか、レッドくんはそう言って立ち上がった。よく分からないけど、待っていたほうがよさそうだ。


「わかった。待ってるよ」


小さく頷いた彼は、私が来た方角とは反対方向へ消えていった。先刻より深い静寂が訪れる。
本当に戻ってくるのだろうか。あまり人と関わるのが好きそうな感じではなかったし、邪魔だったのかもしれない。……まぁ、それならそれでしかたがない。戻ってこないと決まったわけではないし、信じて待つことにしよう。
そう結論付けて、空をあおいだ。



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