携帯獣(捧げもの/頂きもの)−ブック
□頂きもの06
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「コンタクトにしようかなぁ」
そう呟いたのをたまたまトウガンは聞いてしまった。
「なんだ? 好きな女の子でも出来たのか?」
「! な、いきなり何言って……!」
からかい混じりにそう問えば、顔を赤くして慌てたヒョウタにトウガンは内心驚きながらもついに化石以外にも興味を持ったかと喜ぶ。
日頃から熱心な化石好きに一抹の不安を覚えていたのだ。
一つの事に夢中になるのはいいが、浮いた話の一つも無いというのは如何なものかとトウガンは日頃から思っていた。
親の贔屓目無しにしてもヒョウタは整った顔をしていて、本人は気付いてもしれないが女達からモテている。
だというのに本人は化石化石化石……。
一時期は化石と結婚でもするんじゃなかろうかとトウガンが本気で心配した位だ。
「外見を気にするなんて一体どういう事かと思ったけどな、そうかそうかお前にも春が来たか」
思わずしみじみと思い返してトウガンは頭を振る。
一瞬、今でさえも目を逸らしているヒョウタの異常な化石の可愛がりっぷりを思い出しかけて慌てて頭から追い出したのだった。
同時に、ソファに座っていたヒョウタからクッションを投げつけられて良い具合に忘れる事が出来た。
「からかうなよ!」
「わかったわかった、で、どんな相手なんだ?」
にやにやとトウガンが締りのない顔で問いかければヒョウタは益々顔を赤くしてヒョウタは唸った。
「だから! あんな奴好きなんかじゃないよ!!」
「ふうん?」
「ほんとだよ! 大体何で僕があいつの事好きになんてならなきゃいけないんだよ。馬鹿で考えなしだし、アフロだしうざいし暑っ苦しいし……」
つらつらとヒョウタが赤みの引かない顔で言う欠点にトウガンは思わず耳を疑った。
「アフロ……?」
「そうだよ、もうオーバとかじゃなくてアフロでいいと思う。なんで名前なんて持ってるのかなアイツ……」
「オォバァァアアアア!?」
トウガンは思わず叫んでいた。
アフロことオーバは四天王の一人で、ジムリーダーのデンジとよくヒョウタの口から話題に出る男だった。
普段から笑顔でこけ下している相手に対して一体何がどう天変地異を起こして顔を赤くするなどしているのか。
トウガンは思わず、目の前の彼は本当に自分の息子だろうかと考えてしまうほど動揺した。
「な、何があった……!」
つい、切羽詰まった声で詰めよればヒョウタは驚いた様に目を見開く。
「父さん? 別に何も無いよ。そもそもコンタクトにしようかなって思っただけなのに飛躍させたのは父さんの方だろ?」
そう苦笑されてトウガンは安心して胸を撫で下す。
オーバが恋の相手かもしれないという衝撃の前では石にしか興味が無かった前よりも性質が悪いとしか思えず、トウガンはヒョウタが人間に興味を示したという幻想をさっさと捨て去った。
「なんだ、外見を気にするからつい勘違いしただろ」
「父さんも早とちりだな、それに僕には化石ちゃん達がいるし……」
そう言ってまた頬を染めるヒョウタにトウガンは苦笑する。
「そうだよ、僕はオーバなんか好きじゃないんだから。コンタクトにするのだって化石ちゃん達をレンズ越しじゃなくて見たいからであって……」
ぶつぶつと言い始めたヒョウタにトウガンは嫌な予感をひしひしと感じていた。
何があってコンタクトにしようと思ったのか知らないが、そんな風に気にする様はまるで恋を自覚する前の様だとトウガンはぞっとする思いを抱いたのだった。
(よりにもよって……いやでもまさか、いやいやいや……)
胸中で必死になって葛藤するトウガンをよそに、鳥肌を立てたヒョウタが戸惑った様に目を泳がせる。
それがまた思わせぶりでトウガンは気が気でなかった。
どうか違います様に、と思いながら後日ゲンに遠い目でどこで育て方を間違えたのかと哀愁を漂わせながら愚痴を吐くトウガンの姿が見られたとか――