携帯獣(捧げもの/頂きもの)−ブック

□頂きもの07
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 好きな相手と一線を越えたいと思うのは、自然な事だ。
 けれど、実際したいと言うのには戸惑いを覚えてしまう。
(言えないっ)
 恥ずかしさで顔から火がでてしまいそうな思いをここ数日何度もヒョウタは味わっていた。
 言おうとしては失敗し、オーバから逃げる事数回。
 家で自己嫌悪に布団を被ってじたばたしていると上から誰かに圧し掛かられた。
 瞬間、血の気が引いて恐ろしさから暴れるが強い力で抑えつけられる。
「ぃ、やだ!」
 火事場の馬鹿力か、相手を布団越しに突き放すと誰かが床に倒れ込む音が耳に届いた。
 倒れ込むと同時に相手が声を上げて、ヒョウタは驚く。
「オーバ!?」
 布団を退かしてみれば、目に飛び込んできたのは床に転がったオーバの姿。
 目を見開き混乱していると、オーバの口から呻き声が零れて慌ててヒョウタはベッドから降りた。
「だ、大丈夫!? ごめん、オーバだって解んなくて……」
「痛てて……あー……大丈夫、吃驚させようと思ったんだけど、意外と力強いんだなヒョウタ」
 オーバが痛みに顔を顰めたのは一瞬、直ぐにいつもの様に笑う。
 ヒョウタは驚きに跳ね上がった心臓の鼓動が落ち着くのを感じながら、オーバの隣に腰を下ろした。
「そりゃあ、化石の発掘作業で鍛えられてるからね。それに体力や力がないと辛いし」
 突き飛ばした事の罪悪感もあってかヒョウタが苦笑すると、オーバはそうかと頷く。
「じゃ、俺行くな」
「え?」
 思わず声を上げたヒョウタに、オーバがドアノブを掴みながら振り返った。
「いや、最近ヒョウタ変だったから様子見にきただけ」
「う……あれは、その!」
「実はさ、」
 ヒョウタの言葉を遮って、オーバは珍しく自嘲する様に笑った。
 その表情に思わずヒョウタは息を呑む。
 そんな風にオーバが笑うのを始めて見たからだ。
「ちょっとだけ、浮気されてるのかと思って焦った」
「は……ええええええ!?」
 一拍置いての後の絶叫。
「いや、だって最近おかしかったしそれに布団でごぞごぞしてたからてっきり、さ」
 最後には消え入る様な声で言い訳するオーバに、ヒョウタは顔を赤くしたまま俯いた。
「ああ、えっと……ごめん、帰るな」
 気まずい空気なのを察して、オーバはそう言ってドアノブを回そうとする。
 ヒョウタは俯いたまま、オーバの服の端を掴んで引っ張った。
「え?」
「帰るな」
 小さな声だったが、ヒョウタは意を決して口を開いた。
「父さん達、今日帰ってこない……それで、その……ああもう解れよ馬鹿っ」
 最後にそう叫んでヒョウタは恥ずかしさで顔を赤くし、更には涙目でオーバを見上げた。
「え、えええええええええ」
 オーバの驚愕の声がヒョウタの家に響き、その後ヒョウタが恥ずかしさから布団を被って籠城してしまう。
 が、今度は優しく布団をひっぺがされたのだった……。



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