その他(ポケレン/ポケダン/アニメ/2003 他)−ブック

□いい雰囲気だなあとは思ってた
1ページ/2ページ

「ミナミ」


背後から声をかける。砂の上にウクレレを描いているウクレレピチューを眺めていた彼女が静かに顔をあげた。視線が合わさる。


「レッドアイ! どうしたの、こんなところで」

「別にどうも。散歩をしていたらミナミを見かけたから声をかけただけだ」

「散歩? 似合わない単語ねぇ」

「うるさい」


クスクス笑うミナミの隣に腰を下ろす。彼女は視線だけでそれを確認し、俺の後ろに視線を投げた。バシャーモのことが気になるようだ。


「無理矢理操ってるわけじゃないとは言ってたし、疑ってもなかったけど、いつでも一緒なのね」

「ああ。なにか問題でも?」

「別に。レンジャーじゃないし、トレーナーでもないけど、パートナーっていえるポケモンがいるって人は珍しくないし、あんたの場合もそうなんだなって思って。ナッパーズの中にもキングドラに好かれている人がいたの知ってるし」

「ナッパーズにも? 俺のところにはいないな。パープルのところのやつらは逮捕されたときいたから、ブルーアイのところか」


ええ。と、ミナミは頷いた。納得のいく絵が描けたらしいピチューが俺とミナミの間に割り込んで座る。自慢げな表情に少し苛立ちを覚えた。


「ところで今日はミッションやクエストはないのか」

「うん。今日はオフ。……なぁに、また相手しろって? トレーナーじゃないからバトルってそんなに好きじゃないけど、アイツが来るまでの暇つぶしに受けてあげてもいいわよ」

「アイツ?」


その単語にとある少年の顔が浮かぶ。勇ましさは評価するが、実力はそれほど高いわけではない彼。……確か名前は――――


「ナツヤよ、ナツヤ。オフとはいえ、なにかあれば休んでなんかいられないのが私達だもの。いまはクエスト実行中。もうすぐ終わるらしいけど」

「休日も一緒に行動する仲だったのか? 親友ってやつか」

「ピチュ!!」


俺の発言にピチューが怒ったように鳴く。親友は僕だぞってアピールだろうか。相変わらず気が強い。……そうでなければ、ミナミのパートナーになって戦おうとは思わなかったかもしれないが。


「そうね、親友はピチューだもんね? 私はわかってるから、怒らないで」

「ピチュ!」


満足したようにピチューが頷く。案外単純らしい。


「そういうわけでナツヤとは親友じゃないの。以前は一番気心知れた仲間だったけど、いまは違うかな。いや、それもあるけど……って感じ?」

「なんだ、もしかして付き合ってる、とかか」

「ご名答! つい最近告白されてね。頼りないところもあるけど、性格的なところは尊敬できるから付き合うことにしたの」


優しい顔で笑って、彼女は語る。嫉妬からか、ピチューは少し機嫌が悪いようだった。


「……ふん、そんなこと言って、実際はお前も意識してたんだろう」

「言いきるんだ? ……でも、そうかもね。ナツヤといると落ち着くし。だけどどうしてわかったの?」

「見てれば分かる」

「ふーん、赤のリーダーやってただけあって洞察力が良いのね」


感心した眼差しに、そうではないと否定しそうになるのを堪える。洞察力が良くないというわけではない。確かにミナミの実力に関しては完全に見誤っていたし、パープルやエドワードのことにも気付かなかったが、一般よりは多少なりと上だと自負している。俺が否定したいのは、それだけじゃないということだ。見てれば分かる。その言葉の裏に隠されたものに気づいて欲しい思いと、気付かないで欲しいという願いが交差する。


「……で、どうするの? 勝負、また挑む?」

「そうだな。そうしよう。俺もコイツもあの時より強くなったぞ」

「それは楽しみ。でも、私だって成長してるの。スライターの性能も前よりあがったしね」


ミナミが腰をあげる。やる気満々のピチューは電気をパチパチと放出させた。続けて立ち上がった俺は、後ろに控えてるバシャーモを顎で促す。かなわなかった思いへの悲観をうちけして、彼女の良きライバルであるために。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ