『豆腐小僧と変装名人』
夜中、兵助は自主練を終えて井戸で汚れた顔や手を洗っていた
今日は満月
月明かりが兵助を照らしていた
ふと、何者かの気配を察して顔を上げる兵助
そこには見たこともない、まるで豆腐のような肌をした美女が立っていた
「誰だ…」
クナイを構えて
警戒をしながらそう聞くと、女は悲しげに微笑んだ
「兵助くん…」
「なんで、俺の名前を知ってる?」
「知ってるわ、兵助くんだって私のことを知っているはずよ」
「…知らない」
兵助がそう言い放つと女は、ゆっくりと懐から豆腐を取り出した
兵助が目を見開く
ゆっくりとクナイを下ろして、まさか…と一言漏らした
「私はトウコ…
分かるでしょう?」
「豆腐の、聖霊…?」
「そうよ
兵助くんいつも食べてくれてありがとう」
「居たんだ…豆腐の聖霊は、本当に居たんだ…」
「ええ、本当は人の前に姿を現しちゃいけないんだけど兵助くんは特別
いつも私たちを食べてくれるから
ありがとう」
「いや、俺はただ豆腐が好きなだけでそんなお礼を言われる事じゃぁ…」
「うぅん、言わせて
私たちは所詮お豆腐…食べられれば消える運命…だけど、兵助くんみたいにお豆腐の事を愛してる人に食べられるのが私たちの喜びなの」
「…消える?」
「ええ…私ももうすぐ消えてしまうと思うわ…
でも、それは仕方ないことなの…
だからその前に、消えてしまう前に兵助くんにお礼を言いたかったの」
「そんな!消えるなんて…!!
せっかく夢にまで見たお豆腐の聖霊に会えたのに!!」
兵助が手を伸ばしたが、それに触れることなく、トウコは建物の陰に消えていった
慌てて追いかけるがもうそこに彼女は無く、ただ一つの豆腐がおいてあるだけだった
「トウコさん…」
彼女の名前を呼び、愛おしそうに豆腐を抱きしめて部屋に戻る兵助
兵助が部屋に帰ってすぐ、そこを八左エ門が通った
そして、植木の陰でうずくまる同級生を見つけて怪訝な顔をする
「三郎お前なにしてんの?」
肩を揺らし笑いをこらえてうずくまる三郎は怪しさ満点だった
「wwwwあw、あいつ…www兵助からかってw遊んでたんだけどwwアイツw馬w鹿wだwww」
「…お前も馬鹿みたいだけどな」
よくは分からないがとても楽しそうな三郎をみて、関わったらだめだと悟った八左エ門は部屋に帰った
次の日の朝、○○は珍しく焼き魚定食を食べる兵助を見た
「珍しっ!
豆腐定食じゃないの?」
「…豆腐食べたらトウコさんが消えちゃうから」
「トウ…誰?」
「何で俺は豆腐じゃないんだ!(力いっぱい机をドン!!)」
「え、やだこいつ怖い」
数日後、憔悴しきった兵助と八左エ門からの証言でいたずらがばれた三郎は花壇に上半身だけ埋められた
、
、