夢が集いし魔法の夜
□事情説明
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まだ昼前の住宅地。降り注ぐ暖かい日光と吹き抜ける涼風が織り成す、新鮮で澄んだ空気。
自宅の庭を掃除する主婦もいれば、散歩帰りの老人も見掛ける。
そんな平和な菫ヶ丘の一角で――
「…………ふぅ」
忍者のように足音を忍ばせ、抜き足差し足の一連の動作を繰り返しているユウキがいた。
既に我が家の敷地に入り、後は玄関扉を開けるのみ。
だが油断するな――!
(焦るな。過去のパターンを解析し、吟味したはず)
ドアを開けた瞬間、砂の入ったバケツが降ってきたこともあった。
――トラップ。
ユウキの帰宅を見計らい、二階の窓から靴を投げてきたこともあった。
――待ち伏せ。
偶然にも帰省していた両親を言いくるめ、三人掛かりでフルボッコ。
――援軍。
今回も恐らく、そのパターンに沿ったものになる。
では、ベランダから入るのはどうだろうか。さすがに何も用意してなど――否。
ベランダの鍵が掛かっていない。あから様にここから入ってくださいと言わんばかりに。
これはトラップだ。
ならば裏口――いや、開かないと確認が不可能な以上、ベランダと大差がない。ゴールとスタートを隔てる物はドア、壁の一枚。
ならば賭けるとしよう。だが勝算はある。
例え家中がトラップ地獄でも、持ち前の反射神経で回避してみせようぞ。
耳をドアに付ける。何も聞こえない。
そもそも聞こえないのか。または玄関に誰もいないのか。
意を決して勢いよく飛び込んだ――――!
「た、ただいま――ぐはぁぁぁああああ!!」
「お帰りぃぃぃいいいいい!!」
飛び込んだ瞬間、ブッ飛びながら戻ってきたユウキ。
滑りながら玄関前で倒れ込んだ。
まさか――待ち伏せだったというのか。
「ぐあぁぁあ!! おま、飛び膝蹴りはねーよ! 膝蹴りは!」
「うっさい! 全く、今何時だと思ってんだ!!」
――――10時丁度! と内心で叫ぶ。
茶の間から玄関まで響く、時計のチャイムがそれを教えてくれた。
痛む顔面を押さえ立ち上がると、目の前で腰に手を当てたヒマリが仁王立ちしている。
ふんぞり反ってはいるが、その顔――特に目の下を見てユウキは罪悪感を覚えた。それに、どうやら学校まで休ませてしまったらしい。
「……心配、した」
「……あー、ごめん」
大きなクマのある顔をくしゃりと歪めたヒマリを見て、茶化さず、素直に謝る。
右手にくっついてくるものだから、左手でそんな少女の頭を優しく撫でた。