夢が集いし魔法の夜


事情
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 まだ昼前の住宅地。降り注ぐ暖かい日光と吹き抜ける涼風が織り成す、新鮮で澄んだ空気。

 自宅の庭を掃除する主婦もいれば、散歩帰りの老人も見掛ける。


 そんな平和な菫ヶ丘の一角で――




 「…………ふぅ」




 忍者のように足音を忍ばせ、抜き足差し足の一連の動作を繰り返しているユウキがいた。

 既に我が家の敷地に入り、後は玄関扉を開けるのみ。

 だが油断するな――!




 (焦るな。過去のパターンを解析し、吟味したはず)




 ドアを開けた瞬間、砂の入ったバケツが降ってきたこともあった。

 ――トラップ。

 ユウキの帰宅を見計らい、二階の窓から靴を投げてきたこともあった。

 ――待ち伏せ。

 偶然にも帰省していた両親を言いくるめ、三人掛かりでフルボッコ。

 ――援軍。

 今回も恐らく、そのパターンに沿ったものになる。


 では、ベランダから入るのはどうだろうか。さすがに何も用意してなど――否。

 ベランダの鍵が掛かっていない。あから様にここから入ってくださいと言わんばかりに。

 これはトラップだ。

 ならば裏口――いや、開かないと確認が不可能な以上、ベランダと大差がない。ゴールとスタートを隔てる物はドア、壁の一枚。


 ならば賭けるとしよう。だが勝算はある。

 例え家中がトラップ地獄でも、持ち前の反射神経で回避してみせようぞ。


 耳をドアに付ける。何も聞こえない。

 そもそも聞こえないのか。または玄関に誰もいないのか。

 意を決して勢いよく飛び込んだ――――!




 「た、ただいま――ぐはぁぁぁああああ!!」


 「お帰りぃぃぃいいいいい!!」




 飛び込んだ瞬間、ブッ飛びながら戻ってきたユウキ。

 滑りながら玄関前で倒れ込んだ。

 まさか――待ち伏せだったというのか。




 「ぐあぁぁあ!! おま、飛び膝蹴りはねーよ! 膝蹴りは!」


 「うっさい! 全く、今何時だと思ってんだ!!」




 ――――10時丁度! と内心で叫ぶ。

 茶の間から玄関まで響く、時計のチャイムがそれを教えてくれた。


 痛む顔面を押さえ立ち上がると、目の前で腰に手を当てたヒマリが仁王立ちしている。

 ふんぞり反ってはいるが、その顔――特に目の下を見てユウキは罪悪感を覚えた。それに、どうやら学校まで休ませてしまったらしい。




 「……心配、した」


 「……あー、ごめん」




 大きなクマのある顔をくしゃりと歪めたヒマリを見て、茶化さず、素直に謝る。

 右手にくっついてくるものだから、左手でそんな少女の頭を優しく撫でた。


 
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