夢が集いし魔法の夜



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 ――――『いい加減、起きたら?』


 夢か現実か、朦朧とする意識の中でそんな声が聞こえた。


 朝の目覚めは小鳥の囀ずりが聞こえてから始まる。

 深く、夢という世界の奥まで入り込んでいた意識が戻り、頭に僅かな鈍痛が響いた。

 視界に入るのは窓から射し込む太陽の日差し。カーテンの隙間を縫うようにしてそれは、眩しさをもたらした。


 ようやく自分は起床したのだと自覚したところで、次はボンヤリとした意識のまま時計を見た。

 壁に掛けられた時計は示す。6時00分。


 何だ。まだ7時ですらない。

 では、二度寝の準備に入るとしよう。




 「――って、そうはいくかバカ兄貴!!」


 「ぐほぁぁあ!?」




 蒲団越しに叩き込まれたヒップドロップに、意識は覚醒を通り越して昇天を開始する。口から魂が煙となってヒョロリロロ。

 明滅する視界の中で少女は腹の上で仁王立ちするなり、容赦なく右足を高く上げる。――踵だとッ!


 まずい、このままでは――ッ!




 「ええい、いい加減どけんか! マジで死ぬ!」


 「寧ろ死ね!」


 「目覚めた途端に死んでたまるか!」




 起こしに来たのであろう。少女、上原日鞠(ヒマリ)はピョンとベッドから避けた。

 その際、両足で踏み込んだ衝撃により「ぐえっ」と再び腹の底から悲鳴を上げる。朝から肉体(HP)は限界(レッド)だ。


 この少女、起こしに来たのか殺しに来たのかよくわからない。




 「命令。起きなバカ兄貴。朝御飯作れ。腹減った」


 「その淡々とした機械みたいな言葉は本当に兄貴に対して言う言葉か!?」


 「そんなのいいから早く! 早起きしたっけ二度寝できないんだよ!」


 「たった今他人の二度寝を妨害しておいてよく言うわ!!」




 こちらだって二度寝できない。主に、明らかに、目の前の少女のせいで。今自分の額に怒りマークが額に浮いてる。


 癖もなく真っ直ぐなショートヘアーに、猫のようにつり上がった目付き。

 まだあどけなさが残った顔付きの少女はまだ中等部の学生。現に今、制服を着ている。


 腕を組んで仁王立ちするヒマリを見て、正直目上の人に対する礼儀に疑問を持つ。

 “自他共に認める”生意気な少女。


 ため息をつく。やれやれだ。




 「今、バカにされた気がする」


 「さーて、どーだか」




 ムッとするヒマリから目線を逸らす。

 丁度時計が目に入り、指し示す時刻をもう一度確認した。やはり時間はまだ、6時。


 早い。少し早い。いや、まだ早い。


 もう帰っては来ない極楽二度寝タイムに、涙が出そうになる。実際に流れたのは、欠伸のせいだけではないだろう。




 そんな少し暗い気分で、いつも通り、普段通りの朝が始まる。


 こんな騒がしく始まる日常こそ、東雲悠輝(ユウキ)の平和で平凡で退屈な毎日だった。


 
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