夢が集いし魔法の夜



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 「おはよう。さあ授業始めるか――って言っても、どうせやりたくないだろ? 俺も二日酔いでな、正直――」


 普段通りを装って入室した野蔵タケシ先生(現在、お見合い挑戦中)だが、教室の空気に絶句した。


 じろり。

 餌――柔らかさと味わいが極上の生肉を舌舐めずりをしながら待つ、檻の中の猛獣。

 まるでライオンやハイエナのような肉食獣の眼をした生徒達に、タケシ先生もさすがに呻いていた。


 冗談言ってる場合じゃない。早く、早く…………。




 (何か、先生が不憫だなー)




 ピリピリした教室の中で唯一、寝不足なユウキだけがまったりのんびりしていた。

 まあ編入生、つまり友達になれるかもしれない人がやってくるのだから皆こうなるか(?)。

 ていうか、ぶっちゃけどんな人か楽しみで仕方ないようだ、皆。


 猛獣の檻へ踏み込んだ飼育員(タケシ先生)から視線を逸らし、眠たそうな顔を窓へ向けた。

 編入生に興味ない、というよりは思考働かなくてフラフラ。これも朝、叩き起こしたヒマリのせいである。




 ――――近くで、妙な気配がした。




 ザワッ!!

 今まで感じたことのないような寒気に、ユウキの上体はビクッと跳ねた。まるで、“会わない方がよかった”と頭の中が勝手に錯覚したようだ。

 ……どんだけ眠たいのか、遂に幻覚(?)まで起きたぞ。……はあ。


 ユウキのため息とタケシ先生の台詞は殆ど同時だった。




 「じゃあ入っていいぞ。ていうか早く来て、お願い」




 少々臆病なタケシ先生の言葉に、待ってましたと猛獣(生徒)達が目を光らした。


 はたして、扉を開けて入ってきたのは女子生徒だった。


 タケシ先生が名簿をちらちら見ながら、チョークで黒板に少女の名前を書いていく。

 間違えて赤チョークで書きそうになり、直すところが彼らしい。教室のどこかから、クスッと笑い声が聴こえた。




 「初めまして。篠希空露奈です」




 ――凛とした、鈴のように澄んだ声。


 耳にした瞬間、ぶっちぎりで寝不足だったユウキ意識が急に覚醒した。一瞬だけだが。

 一度目を擦り、教壇を見やる。




 まるで高級な墨で染め抜いたような長髪は、金属の光沢を思わせる艶があった。

 白雪のような薄い肌は、丁寧に育てた百合の花を思わせる独特の雰囲気を持つ。


 美麗。人形のようなその姿に、さしものユウキの眠気は跡形もなく吹き飛んだ。一瞬だけだが。

 そして、一言。必至に堪え、内心で申す。




 (……黒板の名前、読めねえー)




 恐らく、教室の生徒の半数以上とシンクロしていたと、ユウキは感じた。

 そんな彼らの視線を受けた少女は、姿勢どころか表情一つ変えずに直立している。






 ――こんな日常の一つが、東雲ユウキと少女

 篠希空露奈(クロナ)の初対面だった。

 
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