夢が集いし魔法の夜


放課後のブラブラタイム
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 「本当についてないや、今日……」


 ユウキは一言、もううんざりだと呟きながら額に手を当てた。ガックリと肩を落とし、深くため息をつく。

 ただ漫画やゲーム等の娯楽用品を買おうかと思い、自宅に戻って私服に着替えた後に、市街地へ向かったユウキ。


 ふと気づけば強面のお兄さん達に囲まれて、橋の下にて追い詰められていた。

 下卑た笑い声を上げてナイフを玩ぶ者。またはバキボキと両手を鳴らす者。付き添いらしき派手で際どい服装をした女性。


 ――あれ、何故こんなにピンチなんだ。

 ――そういえば、今日の運勢は最悪だったか。




 「くっくっく、さあどうする? もう逃げ場はないぜ?」


 「誘い込まれたと知らずに来ちゃったしねえ」




 誘い込まれた? ……全然気づかなかったが。偶然じゃないの?

 というか、市街地に行くにはここが近道だから通っただけのつもりなんだけど。


 しかし、相手の数は10人近くはいる。女性を抜いてもだ。しかもナイフなどの武器持ち。

 ユウキは即座にここを切り抜ける方法として――――――金目の物を置いて立ち去ることにした。


 だって、痛いのイヤだし。




 「さあ大人しく――俺達と遊ぼうぜ、“姉ちゃん”」


 「って、そっちが目的かこの下衆野郎ッ!!」


 「おぐぶぁっ!!」


 「「「あ、アニキぃぃぃいいい!!」」」




 近所の奥様方に勘違いされるならまだしも、通りすがりのチンピラ(以下の奴)に勘違いされるとはなんたる事態。

 ほんの少し長い後ろ髪を纏めているとはいえ、そこまで誤解されるような外見だろうか。


 ごく普通のプリントTシャツにジーパン、腰にベルト。服装も別に女性らしい物でもない。

 頭頂部にはアンテナのように立ったクセ毛があるものの、髪型は女性を連想させるものではない。


 だとすれば、――考えられるのはただ一つ。




 「ぐっ……て、てめえ……まさか、男――」


 「父よ母よ、何故オレをこんな顔に生んだぁぁああ!!」


 「ごふぅあッ!? おぐ、あが、がはぁッ!!?」


 「や、やめろ、やめてくれ! アニキが死じまう!!」




 手下Aが涙ながらに悲鳴を上げたところで、ユウキはようやくハッと気がついた。

 今思いっきり踏んづけているのは、ナイフを持った危険人物ではないか。

 だがしかし、顔面血塗れの満身創痍ではあるが。




 「うわ、“また”やりすぎた!? おーい生きてるか! 生きてるなら返事をしろ!」


 「――――――――」


 「駄目だ死んでるー!? 屍と化したぁ!!」


 「て、てめえぇぇえええ!!」


 「よくもアニキをぉぉぉおおおおお!!」




 どうやら危険人物とはいえ慕われていたらしい。

 胸ぐらを掴んだユウキがブンブンと揺すり、ついでに頭部をガンガン地面に打ち付けるものだから手下達が怒った。


 これではどちらが襲って、どちらが襲われた側かわからない。


 何はともあれ、倒れ伏した男(アニキ)に代わり副リーダーらしき男が金属バットを振り下ろした。

 研ぎ澄ました剣術とは全く違い、あまりにも粗雑で大振りな一撃。

 だがそれ故に――不作法らしい邪魔な彩りの無い、剥き出しの暴力性があった。




 「死ねぇ!」


 「よっこらしょ」


 その3メートルにも満たない至近距離からの攻撃を、ユウキは軽々しく無駄がない動きで避けた。

 一度、真横を向いて、体を僅かに反らすことで。



 「はい、遅ーい!」


 「う、うおっ!」




 ドンと右手で、バットを下ろした肩を強く押す。

 少々軽いものだったが攻撃を空振った瞬間を狙えば、姿勢を崩すほどの効果を生む。


 たまらず転げた仲間を見やりながら、続いて二人の男が鉄パイプを同時に振るってくる。

 互いの間を埋めるように、横薙ぎに振られる“暴力”。


 だがその間をユウキは、前方に向けて回転飛びを行い、且つ空中にて半回転の捻りを加えて飛び越えた。

 結果、ユウキは彼らの背中を向いて降り立つ。




 「遅いよ」


 「………………」


 「うそ、だろ……?」


 あまりにも現実離れした軽業に、周りの空気は停止してしまった。息を飲む暇さえない。

 その視線は全て、ユウキに真っ直ぐ向けられていた。




 (……あー、“またまた”やっちゃった…………)




 額に手を当て、自らの今した行いを“嘆く”。

 “反射的に”、つい“やっちゃう”のだった。


 
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