夢が集いし魔法の夜
□―間章―
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近代魔術の発展において、最も貢献した“緊急事態”といえば魔術師のほとんどがそれを口にするだろう。
今から一年前、世界各地に点在する魔術を取り締まる大組織――日本では《委員会》の本部で大事件が起きた。
というのも大勢の魔術師が集う中で突如、空間湾曲が発生した。
何らかの転移術式が発動したのではと皆が焦る中、――――その『扉』は開いた。
膨大な魔力が弾ける空間の亀裂から“人間の集団”が現れ、到着するなり歓喜の叫びを上げる。
わけもわからず、唖然とするしかない。
現れた人間の内、一人が握手を求めながら宣言した。
「私達は、並行世界から来た魔術師です。どうぞよろしく」
「「「…………は!!??」」」
第五次元、並行世界とを隔てる次元の壁。それに穴を開ける大魔術を発現させたのは、“あちら側”の魔術師達だ。
人類が太古から神々や魔物と接し続けた結果、例え同じ年代といえども“世界観が全く違うもの”になる。
――《エイシン》と彼らが自らの世界名だと名乗り、瞬く間に“こちら側”の魔術師達と意気投合する中で語られた。
魔術思想を継いでいた《エイシン》の世界では魔術がこちらより繁栄しており、“こちら側”から見れば“とても幻想的過ぎる世界観をしていた”。
城や村や里までもが夢に見るような幻想的な様相で、“こちら側”の魔術界は度肝を抜かれる。
動物や植物にも似て非なるものが多く、『魔物』なる危険生物が存在したりと、正に“夢の楽園”だった。
故に、互いの友好的な交流が始まるのは遅くない。
科学に興味を持った《エイシン》の人々が移住や旅行、留学といった形で訪れるのは想定できたこと。
逆に、世間に魔術が漏れだそうとしていた“こちら側”の魔術師が、更なる魔道を歩まんと《エイシン》へ向かうことも然り。
流石に“こちら側”の一般社会にはそれを伝えるわけにはいかなく、今までの魔術界通り、世間からは伏せることになった。
外国の状況と同じく、日本では《委員会》がやって来る《エイシン》の人々に戸籍を与えるなどをして丁寧に対処した。
そもそも《エイシン》の人々は“こちら側”との交流を目的に、魔術業界における大きな場へ転移したという。
二年前、《エイシン》のある魔術師が強大な魔術を顕現することに成功し、“魔術に取り込まれてしまった”。
意識を“『魔法』に呑まれ”、狂奔した彼らは自らを『神』と名乗る。
自然界に災害をもたらすほどの“権利”を、悪意ある人間が得たことでその意思が増長、暴走を引き起こす結果となった。
《エイシン》はその“人間ですらなくなった”彼らの討伐を決定。
強大な力が彼らを凶悪たらしめる以上、その存在は神と呼んでいいものか。
――事態を重く見た魔術師達は、彼を通称で《偽神》と呼ぶ。
――世界と人々を“こっそり”救うため、人知れずその『神を騙る偽者』を倒すことにした。
だがしかし、彼が《エイシン》史上で凶悪無比な力を持っている以上、通常では《エイシン》の人間がそれを越えることは叶わない。
《エイシン》史上最強の相手に、事態は混迷に陥った。
…………そこで、ある妙案が浮かんだ。
――そうだ、別の世界から助けを呼んでみよう。
そして、発現した大魔術が《転移門―ホリゾンタル・ゲート―》。
現れた、というよりは無理矢理連れてこられた多数の人間。それらは全て、“こちら側”の世界の人間だった。
ごく普通の若者もいれば、高齢の者もいた。まだまだやんちゃな小学生から、しがないサラリーマンなどの大多数が“一度は大量”に。
そしてファンタジーそのものの世界で、彼らを呼んだ魔術師達は言った。『助けてほしい』と。
しかし、泣き出す人もいれば発狂する人がいた。これを夢だと信じて疑わない人もいれば、その場で自殺を試みようとする人まで。
故にその七割近くを、記憶を消して送り返した。
……では、残りの三割は。
「困ってるならお互い様。こっちの世界にはそんな言葉があんの」
「え? 本当の魔法? うわ、なんかワクワクしてきた」
「私、向こうで魔術師やってたし。……まあ、それなりに勉強させてもらうついでで」
「ふふふ。この歳でまさか、こんな機会に巡り合うとはのォ」
「そのニセモノに教えてやるぜ。誰が喧嘩の相手かをな!!」
そんな何故かやる気満々の十名ほどが、後に《偽神》を消滅させ、英雄となった。
神(偽)に反逆した者として、《偽神》は彼らを《魔王》と呼ぶ。
――それが、《エイシン》とこちらの世界を繋いだ《召喚されし者》(魔王)の逸話だった。
《エイシン》という世界の名は、そもそもその《魔王》の一人が英語で名づけたものだ。
則ち、『Another Century』の頭文字。
『AC』から変じての《エイシン》。
それから一年後に、“こちら側”の魔術業界と交流を果たす。
そして更に一年後が、――――――――現在。