夢が集いし魔法の夜


事情
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 「なるほど。……大体は理解したぞ」

 「あら、理解しちゃうの」


 現に魔術で襲われたし、見たものを信じないのは現実逃避になるのでは。

 なにより、恩人の話を信用しないのは筋が通っていないような気がする。


 食事を終えたところで、クロナは身嗜みを整えに寝室へ籠り、ユウキは食器の片付けをした。

 それを終えた後に、コップに注いだジュースを片手に粗方の事情説明を受けたユウキ。

 面食らうどころか物わかりが良すぎるぐらいの態度を取り、会話の内容上場違いなほどまでリラックスしている。

 そんなユウキに疑問を持ちながらも、クロナは話を終えようとしてきた。




 「質問はないの?」


 「今のところは」




 クロナの説明は二つ。


 昨日襲ってきたクレッシェンドは何らかの魔術を行使しており、その結果や状況が《コモリウタ》の話だと。

 クロナは魔術師で、一人暮らしをするためにこの街にやって来た。“あること”が気になり、クレッシェンドを追わなければならない。

 クレッシェンドと互いに存在を確認した以上、戦闘は避けられない状況にある。


 ついでに現代の魔術についてもクロナは語った。

 この世界と並行状に存在する世界《エイシン》との交流が深まっており、ユウキが知るような古い魔術とは別系統の魔術が多いという。


 《エイシン》の話に妙な関心をもったユウキだが、ともかく冷静に状況を分析していた。


 とりあえず、これからどうしようか。

 クレッシェンドを探し出してぶん殴るのも悪くない。だがユウキ一人で見つけるのは難しく、そこは協力が必要になるだろう。

 それに、知り合ったばかりとは言え女の子一人で怪人と戦わせるというのは、とても気が引ける。




 「うーんとさ、あの馬鹿(怪人)のことなんだけど」


 「…………駄目よ、東雲君」


 「……何その言いたいことがわかってる口振り」


 「勘違いしないで。あなたは“襲われる側”の人間。もしあの怪人が再びあなたを襲えば、今度こそ“寝たきり”よ」




 ブーイングでもしてやろうかと思ったが、クロナの真剣な表情に口を接ぐんでしまう。ふざける空気などではない。


 確かに、昨日のあの展開を見て生半可な戦闘力では足元にも及ばず、奇襲を掛けたところで返り討ち。

 折角助かった命を無駄に散らすことになる。




 「忘れないで、あなたは“こっち側”の人間じゃない。あなたがいるべきなのは“普通の世界”よ」


 「……………………」




 ――――もう、帰りなさい。

 そう去り際に呟いたクロナは、こちらに背を向けて出ていった。

 学校へ向かったのだろう。今日も普通に登校日なのだから。




 「…………いや、俺置いてきぼり!?」




 少し経ってからようやく気づいた。

 真剣なムードで話されていたために、絶句して固まってしまっていた。


 こんなことですら追いつけない輩は足手まといだといいたいのだろうか(きっと違う)。

 だが、ユウキの制服や学習道具などの類は全て自宅――――――自宅?




 「し、しまったぁぁあああ!!」




 自宅。そう自宅だ。

 カレーライスは放置の上、争ったような痕跡。

 加えて玄関扉は開けっぱなしで逃げ出してきた。


 つまり――――




 「……やばいな、ヒマリに殺される……!」


 
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