暁光の名のもとに


□あかつき
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少女、椎名美玖は未だ路頭に迷っていた。

少年と出会った丘を下りてすぐ通行人に現在地の住所を聞き出し、今いる場所を絵戸東区の目的地周辺だと知る。

それはとても幸運なことだった。

絵戸の東区だといっても目的地周辺じゃないだけで安心の猶予はゼロに近い。
少しでも遠いだけで道に迷ってしまう確率がかなり上昇する。

ラッキーだったのだ。

なのに、何故こうなる!?

「運の神が見放すなんて!ああ、運がない!!」

美玖は既に、……否、漸く気づいた。

(私って、方向音痴なのでは!)

うむ、その通りだ。
そう言ってくるであろう少年の姿が目に浮かぶ。

失敗した。
折角仲良くなれそうだったのだからあの少年に道案内を頼めば良かったのだ。
何も緊張して逃走しなくても良かったのだ(何でかは自分でもわからない)。

とほほ……と、肩を落とす。

現在時刻は2時の終盤、3時寸前。
丘の上での出来事が11時過ぎだから……と、そこまで計算したところで再び肩を落とした。

「もうだめ……。飢え死にかも……」

とりあえず手元にあった丁度いい肩ほどの高さの柱に左手を乗せる。
そしてため息、何故こんなことになったのだろうかと、数日前の記憶を掘り起こす。

そうあれは犬の遠吠えが聞こえ、風もなかった夜のこと…………。
思い出せば思い出すほど…………ああ……

「目も当てられないわね……」

「何がじゃ?」

「いや、だから………………え?」

美玖は声の聞こえた方、丁度左手を柱に乗せている方角に顔を向ける。
そして、身を硬直させた。

眼前、というよりすぐ近くに老人が直立させていた。
頭には薄い風呂敷をバンダナのように巻き、和服を身につけている。

いやそれよりも驚くべきことはそのご老人の頭には美玖の左手が置かれていることだ。

……あれ、左手は柱に置かれているはずなのに。
そう、丁度先を丸くした市立公園の柱みたいな……。

(あ、そうか。柱ってこのお爺さんの頭かぁ……)

うむ、その通りだ。
そう言ってくるであろう少年の姿が目に浮かぶ。

「何がじゃ?」

「え?」

「何が目も当てられないと?」

「あ、いやその…………ごめんなさいごめんなさい!」

ご老人の頭に巻かれた布、その隠された部分には金属のごとく光沢が。
そしてある意味冥土の焼け野原とでもいう光景が。

不毛。
その二文字。

「おのれぇ……儂だって好きでこんなことになったわけではないのじゃぞ!」

(うん努力したんでしょうね。それはもう)

「しかしこの結果……!」

(ええ、見事に花は散ってしまったようね)

「そして、今初めての悪口……」

(…………何で今日の私こんなに運がないのかしら)

「……ちょっとは弁解しないのかの」

「あ、いや丁度良く行動と台詞が噛み合ったんです」

「ふむ」

「それで……………………あれ」

「どうかしたかの」

…………この人。
この声、この服装、この雰囲気…………。

美玖は咄嗟に浮かんだ過去の記憶、その一部と目の前の老人を重ねて見直す。

――――神はいた!?

「………………もしかして…………」

「……何じゃ?」

「…………………………臣郎お爺ちゃん?」

「…………なぬ?」
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