暁光の名のもとに


□序章
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――――時は、一年前。

日和国絵戸、北区が端、さらに北。
地元が名物、久時山にて。

昔々から人の寄せつけぬ、地元民からも畏怖の地として黙認されてきた霊峰、久時山。
そのあまりに整備が行き届いていないとされる地が、過去に有名な神社山と知られていたという事実が“彼ら”に伝えられたのはこの日が終わる後である。

見回せば周りは竹に松、広葉樹に針葉樹。
上を見上げれば高く伸びる大小異なる枝や葉の緑が圧迫感を込めて見下ろしてくる。

積み上げられた黒石の階段の先には山を削って造られた平坦な土道が続いていた。
微かな弧を描くこの道を抜けたところにはまた階段があると見れる。
半円の形をした道の後に階段、それが数度続くと山の入口にあった看板には記されていた。

山に響くは、普段は聞けないはずの人の声。
悲鳴、怒号、掛け声、断末魔。

平坦な道に立ち塞がるのは、黒服の男達、少分に女性も混じっている。
彼らの服は戦闘用と儀礼用を兼ね備えた、祈祷服をマントを足してアレンジした、まさに邪教徒のそれを想像させた。
――否、その通りである。

彼らの手には、剣に銃。
正式に認定されている物もあれば、自作品とも見れる変哲な品もある。
小型な物もあれば、大掛かりな品もある。
それが向けられるのは、彼らの血走った狂気の塊の目、視線の先。

階段を登り詰めたばかりの“彼ら”。

子どもだった。

十五、十六歳ほどの少年少女たち。
彼らもまた、異装束に身を包んでいた。

全身和装。
男女問わずに羽織袴を身につけ、軽い足取りで道に躍り出た。

純白と漆黒の二色を基調の服装、さらには鉢巻きに籠手や脛当てなどの装飾防具その他。
この外見から見れば彼らの敵である邪教徒のそれに似てなくもない。
しかし志は似て非なるもの、真逆。

護る者と奪う者。

前者の少年少女たちが被る羽織の背に、五角の星を砕いたかのような紋が刺繍されている。
これは彼らが所属する家名にして、彼らという“荒くれ者”の集団を意味する、印。

名を、流星団といった。
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