読切版マジシャンズ・サークル
□逃走
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目の前は文字通り、真っ暗だった。視界も暗ければ、これからの人生も暗い。強いていえば、気分暗かっただろう。
何故こんなことになったのかと、自らに問いたくなった。
しかし“彼女”には妙にも、あっさり納得できてしまう。
「はぁ、はぁ……。……はぁ、はぁ」
ずっと動きっぱなしだった足を止め、一度体を休めて息を整える。結構な疲労がたまり、体は重く、肺が圧迫され苦しかった。
だが、休む暇などない。
次はどちらに向かおうかと、辺りを見回す。
が。
「…………」
逃げ場など、なかった。
何となく、直感的に人の気配がする。それも自分を囲み、逃げ場をなくすように。
そもそも、ここは街の真っ直中。夜とはいえ、時刻は8時ほど。
数え切れない人が賑わっていて当然。
人の気配がしても不思議ではない。
だが、彼女はそれが“異常”だとすぐにわかった。
――街明かりなど一切ない、暗闇の中ならば。
周囲の景色が見えるのも、月明かりが雲の隙間を縫って照らしているからだ。
街灯一本点灯していない街など、人気が感じられなくて当然だろう。
もう限界だ。追っ手がきているならば迎え撃つ必要がある。
だが、彼女は迎撃の手段を使うわけにはいかなかった。
「…………っ!」
故に、体に鞭を打ち再び走り出した。
向かうは1kmほど先の住宅街やビル街。あそこならば、この“異常”な空間も構築されていないに違いないと睨んだ。
「いたぞ! こっちだ!!」
背後から聞こえた叫びに、体中が一気に震えをあげた。
振り向いている暇などない、やつらは既に近くにきている。
その気なればできる攻撃が、今はできない!
――――手も足もでないとはこのこと……。