読切版マジシャンズ・サークル


□夜は、呼ぶ
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 「まあ、この“不審者”三人もぶちのめしたし。安心でしょ」

 「まだ早いよ! こんなのまだ一部――」


 二人の会話を遮るように、近くの路地裏からバタバタと足音が聞こえ出す。右、左、正面、ほとんど囲まれたも同然か。

 カヅキはリュミを、自分を盾にして背で隠した。ボードを地に立て、左足をドンッと乗せて鼓舞のようなことをする。

 やがて、目の前に気絶させた三人のような“集団”が現れた。


 「ふふ、ふふふ。見つけたぞ、我らが姫……」

 「逃げてはいけないよ。ふふふふ……」




 ――――うわ、怪しい……。

 一目で彼らの“不審者率”の高さを思い知った。


 全身、ファンタジーの魔法使いを模したような白づくめのローブ。頭部には円形の笠に三角錐がある、トンガリ帽子。

 理解不能、解読不能な文字を並べたデザインが、余計に怪しい。

 倒した三人と同じ、“不審者さん達”だ。


 「小僧! 今我々を見て不審者だと思ったな!!」

 「こ、心を読まれただと!?」

 「顔に書いてあるわ! ……それに、怪しいと思うのは仕方ないことだ!」

 「自覚あんのかよ! そしてそれでも着てるのか!!」




 筋金入りの不審者軍団に遭遇したカヅキ。

 大体数は十人越え。周辺のざわめき具合から、周辺に彼らの仲間はいそうにない。

 リュミを捕まえにきた雑兵部隊御一行さまといったところか。

 なるほど、リュミがカヅキに洩らした『追われている』とはこの集団が原因らしい。

 タチの悪い、そして数のヤバさがとんでもないストーカー被害にあっていたのか(!?)。


 「えと、東雲……くん? 逃げよう」

 「あー、カヅキと呼んで構いませんよ」


 くいくいっ、とカヅキのパーカーの袖を引っ張るリュミ。

 確かに、自分達の後ろはガラ空き。逃走の余地はいくらでもある。というか少し離れているが、明るい場所に行けば人もいるだろう。


 「……いや、逃げない」

 「え!!?」


 だが、カヅキはきっぱり断った。ニヤリと口角を上げながら、リュミに伝える。


 「どうせ逃げても、また何かありそうだし。……叩いた方が早いかな」

 「いや、む、無理だよ! だって――」

 「無理かどうかはやってから決める。大丈夫、自信は大有りだから」


 自分を頼れと、優しく宣言するカヅキ。リュミ一瞬、その笑顔に呻いて赤くなった。


 「いくぞ、不審者ども!!」


 包帯が巻かれた右腕のパーカーの裾を捲る。二の腕のバンダナも一度しっかり押さえたカヅキ。

 全く臆することなく、集団に突っ込んでいった――!


 「だ、駄目だよ! 止まってカヅキ君!」

 「止めるなリュミ! 俺が助けてやるから!」


 リュミが制止を呼びかけるが、カヅキはもう止まらない。何故なら、現在進行形で突進中なのだ。




 「その人達は“魔術師”なの!! 魔術を使われたら、普通の人じゃ相手にならないの!!」

 「な、――――なにぃぃ!!??」




 リュミの必死の叫びに、カヅキは一瞬で思い出した。先程叩きのめした三人組が、確かに言っていたのだ。

 『魔法』と。


 この不可解な異常空間に関係するやもしれない彼らなら、もしや――。

 だが、今更危惧してもカヅキは既に敵前に迫っていた。もう急停止しても、恐らく敵の射程内。


 「はははっ! いくぞ、同志達よ! 我らの力を存分、この小僧に知らしめるのだぁ!!」

 「「「「おおおおおおぉぉぉ!!」」」」

 「くっ――、くそおぉぉぉお!!!」


 先程から仕切っているトンガリ帽子の一人に向け、カヅキは右腕を突き出した。

 魔法やら魔術やらは知らないが、肉を切られてもヤツの骨を粉砕してくれるっ――!




 そして――――――――――




 「うおぉぉぉぉああっ!」

 「ぶぐはあぁぁぁぁ!!」


 カヅキの拳は、トンガリ帽子の顔面にぶち込まれた。

 咄嗟の出来事で、渾身の力で放たれた一撃は一人をぶっ飛ばして、背後に控えていた数名も一緒に巻き込んだ。




 「「――――え!?」」


 カヅキとリュミの疑問符が、綺麗に重なった。
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