読切版マジシャンズ・サークル
□事情聴取
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「どう? 落ち着いた?」
「……う、うん」
最初から落ち着いているのだが。
街から少々遠ざかり、住宅街のユリハナ公園まで戻ってきたカヅキ。
自動販売機で飲料を購入し、ベンチに休ませたベンチへ近づく。
いつの間にか“住宅街の”電気関係が復旧し、街頭や自動販売機も見事に復活していた。
現在時刻は22時後半、街全体で見ればほとんどの人が動いていない。
人は何事もなかったように夜道を歩行している。それも“いつも通りに”、普段から夜出歩く少ない人数だ。
「――というわけで、」
「……え?」
「事情をお聞かせ願いますかっ。何か、知ってそうだしね」
“異常”を経験したばかりなのに暢気なカヅキ。
ベンチに座るリュミの横にゆっくり腰を下ろした。因みに、コーヒーは苦手なのでお茶(缶)を購入。
凄むわけでもなく、怒るわけでもなく。
あくまでも平常心で優しく語りかけてきたカヅキに、リュミは一瞬面食らってしまった。特に、緊張した様子は少年に見られない。
リュミ自身も意外なことに、気づけば口を開いて話していた。
「もう大体わかっていると思う。――さっきの“異常”な街は、魔術……に関係してる。『再現』された世界なの」
「いや全くわかんないですけど」
世界を『再現』した。リュミの言う通りならば、あれは別世界ということか?
――いや違う、通常の人々がいない空間を『再現』したと彼女は言いたいのだ。
不意に、カヅキは先程までのやり取りで出てきた『魔術』だの『魔法』という言葉を思い出した。
「私達がいた街中とは別に、“突然”発生した呪力が『人が眠っているであろう時間』を、この住宅街に再現したの。
だから、ここではカヅキ君以外の人はみんな家で寝ていた」
「……はー。は? 何で俺以外?」
「わかんない。……カヅキ君も例外なはずないんだけど」
率直な質問を返したが、リュミは不安そうに首を振った。
とりあえず自宅で寝てる二人が無事ではあるなら――まだ、大丈夫と納得しておくか。
「魔術、ねぇー……」
「……うん。信じ……られないよね」
(目の前で実際に起きたし信じるしかあるまいよ……)
どことなく落胆するリュミだが、カヅキは内心興奮と混乱が入り交じっていた。
つまり普段からやるゲームや、立ち読みするマンガなどの状況が現実に起きたと。そして、自分はその真っ只中にいたと。
――――……とんでもねーな、おい……。
カヅキは遠い目を、紺碧の星空へ向けた。
「――猛る獅子王よ。炎のたてがみを燃やし、業火の咆哮を上げよ。光り輝け、魂の導きよ」
いつの間にかウェストポーチから立派なメモ帳を取り出していたリュミ。落ち着くよう静かに目を閉じ、――――言霊を詠唱。
瞬間。
二人の目の前で、宙に浮く光が突如展開した。複数の光の線が瞬時に結び合い、輝く円を象る。
発光した“魔法陣”から、輝く光球が顕れた。赤い炎を纏うそれを見たカヅキ――……呆然。
「どう? 信じてくれるカヅキ君」
「一片足りとも疑ってないし! ていうか目の前に事実が!? うわっ、近づけなくていい! 熱っ、熱ちちちち!!」
リュミの指示(?)に従ったのか、宙に浮く光球はカヅキの顔へ寄ってきた。
主に摺り寄る子猫みたいだが、現実はたまったもんじゃない。火傷どころか黒こげにされそうだ。
リュミはカヅキのそんな焦りきった様子に、微笑んでいた。
カヅキは『悪魔か? 実は敵なのか?』と警戒心を露にしていたのだった。