Dreams
□さよならのかけら
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「で、美香。どうなの彼とは」
「まぁぼちぼちよ。そのうち結婚するかもね」
「今度紹介しなさいよー」
「わかってるって」
久々に大学時代の親友と会い、お互いに積もる話を喋りまくって一段落。
「すいません、おんなじやつ。あんたは?」
空のグラスを持って店員にヒラヒラかざしてみせる美香に促され、自分のグラスもほぼ空だと気付く。
「あ、こっちも。同じの」
運ばれてきたグラスを手に取り、ふと腕時計を見やる。
「あ、もうこんな時間だ」
「ん?まだ10時過ぎじゃない……でも明日も仕事かぁ…」
ほんと嫌んなるーとか言いながら美香は伸びをした。
「小百合はここからどうやって帰るの?」
「ん〜歩いて帰ろうかな」
「歩き!?結構遠いんじゃない?あんたお嬢なんだから迎えとか来ないの?」
「いいのよめんどくさい。なんか歩きたい気分だし」
グラスの残り半分を一気にあおった。
「あ〜、あの幼なじみで婚約者のあの人にさ、迎えに来てもらえば?」
「昴に?…冗談でしょ」
「相変わらず冷めてるわねーあんたは…婚約者いても不特定多数と遊んじゃうくらいだし」
「それは向こうも同じ。だから、いいの」
ほら出るよ。そう言って席を立った。
「それじゃ、またね」
「うん。連絡する」
手を振って美香と別れ、私は家の方向に歩き出した。
(…ちょっと電話してみようか)
携帯のディスプレイに昴の番号を表示させ、通話ボタンを押した。
別に、さっきの会話で名前が出たからってわけではないけど。ましてや「迎えに来て」なんてねだるつもりもないけど。
……だいたい、そんなふうにねだれるような関係じゃないんだ、私と昴は。
仮面婚約者。まさにそんな感じ。
(出ないじゃん)
ふん。なによ。切話ボタンを押そうとしたその時。
「もしもし」
「あ、昴?出るならさっさと出てよね」
「…なんの用」
心底めんどくさそうに昴がため息をつく。
「式場のパンフレット、送っといたよ。届いた?」
「そういうのはお前に任せるって言ったろ。そっちで決めてくれて構わないから」
「あ、そ」
横の車道を車が2、3台通り過ぎる。
「お前、今外か?」
「そうだけど」
「またバカみたいに飲んで歩いて帰ろうとしてんだろ。自分の立場考えろよ」
「バカみたいになんて飲んでませんー」
「あのな…」
またため息。
「心配…してくれてるとか?」
私が政治家の娘だから?婚約者だから?幼なじみだから?
その時、電話の向こうから女の子の悲鳴といっしょにガッシャンと物が割れる音がした。
ばか!お前は台所触んな。後で俺がやるから。昴が大きな声で呼び掛けてる。
「小百合、もう切るから」
「…同棲生活でも始めたわけ」
「……ちげぇよ。マルタイ。上の指示で俺の部屋に置いてる」
「ふーん」
でも、さっきの昴の声、すごく優しかったよ。なんで私と話してるときと、そんなに声が違うのよ。
なんで私にはそんなに冷たいのよ。
もうすぐ結婚、するんだよね?私たち。
昴がやっと私のものになるって、思っていていいんでしょう?
…言えるか、そんなこと。
「じゃあな」
「うん」
小さい頃から決められてた。一柳昴。この人と将来、一緒になるって。
それはもう、当たり前のことで。必然で。
だから私には昴しか見えてなかった。昴が同じ気持ちではないことは、分かってたけど。
それでも、昴が私以外の女を抱こうと私が昴以外の男と遊ぼうと、行き着く先は同じ。
私たち二人は一緒になる。
(そうでしょ?昴)