蒼天輝く

□伊
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例えるならば若木だ、と言われた事がある。
凛としてしなやか、何処か人を惹き付ける強さがある。

だが、と、その名も知らない男は言葉を続けた。

――なよっちいなァ?まだ青いガキだ。兄ちゃん、その面じゃぁまだ女も知らんだろーに?


足蹴にしてやった。




天輝く



人は、此処を戦場の切れ間、と呼んでいるらしい。
一時だけ、血生臭い地獄絵図から離れられるそうだ。
一瞬の幻、の様なものだろうか。
殺し殺されの戦場に出たことのない私には、そのような心境は良く分からない。

唯一つ、反論を挙げるとするならば、此処だって一種の戦場だ。
私だって戦っている。


――何と?

分からない。
自分と、とか、過去、とかそんな高尚な理由は生憎持ち合わせていない。

でも、今の心中は穏やかではなかった。
お天道様は少し前から傾きはじめ、そろそろ浪士達が引き上げてくる頃だ。

頭の真ん中にぎゅうっ、と、神経が詰まっていく感覚。


さらしは足りているか。湯は十分に沸いているか。
――米は?包帯は?


風の噂で、今日から最前線の向きが変わったと聞いた。

――彼らは、此処に来る。

耳を澄ますと微かに、鎧防具の触れ合う音、男共の騒ぎ声が聞こえてきた。

襟をぴん、と張って、息を吸う。

嗚呼、今、理由を一つ思いついた。
この感情を形容するには、“戦っている”が一番しっくりくる。

少し目線を上げた。



『―― 開戦 、』


表へ出て、大声で此処の存在を知らせた。
走ってくる者、仲間を背負って歩く者。

最前線の浪士達とあって、眼光の鋭さも、怪我の程度も違う。

今日は何時もより忙しくなりそうだ、と思った。


――やってやろうじゃないか。


一団を案内したところで、小屋の中へ駆け戻った。




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