蒼天輝く

□波
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キーンと尋常でない緊張が走った。
暫しの静寂の後、すぐに騒めきが無遠慮に広がって急に辺りが慌しい空気に変わる。
反対側に座っていた者達が、追い立てられる様にして移動を始める。
怒声が飛んで、それを諫める様に各隊の長が辺りをぐるりと睨めつけた。
時間が止まったかと思わせる緊迫――


桂小太郎は、小屋の縁側で陣形を練っていた時、その騒ぎを部下によって知らされた。

部下、と呼ぶのは桂の本意では無いのだが、"申し上げます"と膝を付いて畏まるあたり、既に立派な上下関係だろう。
同じ目的に向かう者は皆同士のつもりなのだが、腕前が露骨に物を言う戦場では致し方無いことか。

彼が取り敢えず様子を見て下さい、と申し出たので、睨めっこしていた紙を懐に仕舞って腰を上げた。
どうせ喧嘩だろう、
この所の難戦で気が立っているのは明らかで、小さな諍いも絶えない。
今夜は珍しくそれを耳にしないと思っていたが、やはりかと呆れ混じりの溜息を吐く。
少し面倒に思わないでも無いが、促されるままに腰を上げた。

しかし話を聞くと、喧嘩では無い、と言う。
では死人かと聞くと、そうではないと言う。
桂は眉を寄せて、足を止めた。

「では一体何なのだ、
用が無いのに呼んだのか?」

「私も良く分かりませんで…
一応お伝えしておこうと。」


要領を得ない報告にうじうじと説教を垂れながら、何か桂の心には予感があった。
あの世話人――銀時や高杉が喧嘩を吹っ掛けた彼が絡んでいるのではないか。
あれは確かに銀時らが原因なのだが、
若さ故なのか、少々世間知らずとも取れる言動が気になっていた。


「すまんな、少し空けてもらえるか」

うっかりもたれ掛かると折れてしまいそうな柱を心配しながら、入り口に陣取っている浪士達に声を掛けると、桂の顔を見るなり頭を下げさっと道を開けた。
二十畳はあろう部屋の奧を覗いても、薄ぼんやりとして良く分からない。
様子を聞こうと一人の肩をちょんと叩くと、掛け値無しに男は飛び上がった。
この恐縮のされようは幾ら何でも心苦しい。
極力柔らかに気を払って説明を求める。


「ろ、六番隊の副長殿をご存知でしょうか」


副長の名を挙げると、そうですと言って首を上下させた。
確か坂本が連れ帰った男だったと記憶する。


「あの男、生きておったのか」


はっと口を押さえたが、相手は固まって失言に反応を示さ無かったので、一先ず良とする。
目で促して、続きを聞く。


「へえ、手当てを受けまして起き上がれるまでに回復致しました。
しかし、腹を深く抉られて命は風前の灯火、敵の傷に死ぬる位ならば自刃する、と聞き申しませんで」

「何て真似を…」


無意味な死は嫌いだ。
そういう事かと早合点していきり立つ桂を、男は縋るように止めた。


「桂殿お待ち下さい!あそこに囲まれているのが副長です」

「思い留まったか…早く言わんか」

「ええ、その…何とか――」

「何だ、言え」


急に目を逸らせて急に言い淀んだ男を急かす。
きっと桂の方を向いて、覚悟を決めた様に口を開いた。


「力づくで止められました。
起き上がろうとした所を、首に刀を突き付けられて。

その――此処の主に」





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