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□impressive azure
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際限なく美しく広がる海。
海の青は空を写して青いという。
青く深く、どこまでも遠く。









Impressive azure










そのはるかむこうの、ひんやりと心地よい場所で彼らは眠る。
ねぇ、この声は届かなかった?
なぜ、俺はそうしたのか。
ただ、俺は。


彼らと俺との間に何の差があったのだろう。
ないのだ。何も。
少しのタイミング。ただ、それだけ。

限り無く続くと錯覚してしまうこの生。
でも確実に終わりはそこにあって。
ふとした拍子に思い起こされる。まざまざと。
もし、俺が。
もし、あなたが。




この海の先に伝説の大地があるという。
そこはどこまでも美しく、暖かく幸せであるという。
もし、彼らがそこに辿り着けるなら。
いや、辿り着けると。
願っても良いだろうか。
願う事は傲慢だろうか。



「十代目…」
「…はや…と…」


背後から手を回されて、広い胸に抱き込まれるように収まる。
まるでそこが帰る場所であるかのように。
目前に広がる青い、どこまでも蒼い海。
対照的な漆黒のスーツ。
真っ青な空と真っ青な海。そして真っ白な砂に立つ、黒い自分。
色も無い、空っぽの体。

「十代目…じゅうだいめ…」

考えないでください。
自分を、責めないでください。
あなたの心は確かに届いて、そしてこの結果は決してあなたのせいではない。
あなたの命で、決断であっても。
それは、あなたのせいであると、そういう事にはならない。


「どうして、分かったの?ここにいるって。」


十代目の声が掠れている。
まるで一晩泣きどおしであったかのように。
胸が、ギリギリと痛む。
あなたの痛みに。
分け合う事ができたらどれだけ、良いのだろう。
でも、あなたの側にずっといたから、突き刺すような胸の痛みは確かにあって。


力を込める。腕に。
お願いだから、側にいてくださいと。
お願いだから、自分を許してくださいと。



マフィアだから。
だから、こういう結果があるということは分かっている。
でも、だからって馴れる訳じゃない。
馴れてしまうなんて、できない。

大きな衝突があった。
世界を巻き込む不況の中、同盟ファミリーが苦しいのは分かっていた。ボンゴレもそうであるから。
だが、出してはいけないものに、“人”として生きれなくなるものに手を出す事は断じて許していなかった。
それは諸刃の剣で、うまくいけば莫大な資金を得る事ができる。無数の冷たい躯の上に。
ボンゴレ10代目として、それを許すわけにはいかなかった。
それは、あまりにも人の“ココロ”を奪い去ってしまうものだったから。


夜襲。
飢えた彼らが我慢という最期の砦を破って牙を剥いてきた。
闇の中、何も見えないままに己の命すらも見失い散っていった。
たくさんの命が、散っていった。
襲った方であろうと、襲われた方であろうと。
結果としてたくさんの命が海に還っていった。母なる海に。


ちょうど一週間前、視察に訪れていたところだった。
ドンボンゴレを迎え、緊張する面々。
そんなんじゃないから、とツナのその大きさに彼らは圧倒され、そして幸せそうに笑んだ。
この組織を認めた訳じゃない。
でも、そこにいる人が幸せなら、意味があるのかもしれない。
そう、思っていた矢先だった。



「…右腕ですから。あなたの行くところなんて、どこだって分かります。」



儚く震える琥珀の体が、ここではないどこかへ行ってしまいそうで、心臓がぶちりとやぶれていきそうな感覚に襲われる。
ねぇ、十代目。
楽しげに笑っていたあいつらを覚えていますか?
十代目を慕ってやまない、あの暖かい目を覚えていますか?


「ねぇ、十代目。この海の先には天国のような素晴らしい世界があるらしいですよ。」


綱吉が鼻をすする。獄寺に気取られない様小さな音で。


「そこはとても素晴らしく、この世を後にした者は幸せに暮らせるらしいです。聞いた事ありますか?」


腕の中の暖かな体を抱き直して頬を頭にのせる。
彼の顔を覗き込まない様、優しく、優しく背後から抱きしめながら。


「彼らを覚えている事。俺たちにできる唯一で何よりの事ですよ、きっと。」


輪廻転生とか、死後の世界とか。
あるかどうか分からないものだけれども。
でも、信じられないものでもないと思う。もし、あなたの救いになるものならば。



「…まぶしい、ね。」


綱吉の体からゆっくりと力がぬけてゆく。
反比例するように、腕に力を込めてその体を支える。強く、強く。


「そうですね…眩しいです、ね」



空と海が交わるその境界線。
それすらも分からないほど、空は青く、海は蒼く。
全てが輝いて世界を照らし、開かれた目には否応無く焼き付いてしまう。
その美しさが。

力のぬけたその体から溢れる嗚咽も、涙も、心も、全てを。
飲み込んでしまうような蒼。

願わずにはいられない。

もう二度と、もう何も。





この腕に抱きとめる。
溢れないように、優しく。
だから、自分を包むこの暖かさにすがる今日だけを許してほしいと、身勝手さを許してほしいと心から思う。


この海の果てで、輝く光に導かれるとき、幸せであったと思える事を。






願わずにはいられない。














おわり

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