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□雨の日ラプソディ
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6:00

心地よい柔らかな音楽が流れる。
目覚めの時間。
音楽が流れ始めてしばらくたつと、布団から青白い手がガサリと伸びる。
枕元においてある音の流出源である携帯を手探りで探しあてるとむんずと握りしめ、でたらめにキーを押しつぶす。
ぴたり
と音楽が鳴り止むと同時に、携帯が手から滑り落ちる。
ごとり、と。



6:30

けたたましく音が弾けた。
部屋に取り付けたコンポから響く重低音がボンボンと部屋を揺らす。
「…っせ!!!」
飛び起きてコンポに飛びつき停止ボタンを連打して、やっと部屋にもどる静けさ。
そのなかに微かに響く音。しとしと、密やかな音。
何かと、カーテンをひいてみると薄い雲から降り注ぐ銀の雨。
もしやと頭に手をやれば、やはり湿気で跳ねる髪。うっすらと眉根を寄せて舌打ちをする。
まだ眠そうな目をこすりながら低血圧ではっきりしない頭をゆっくりと揺らす。前後左右。ぐるりと一周。
よし、とつぶやき洗面台に向かう。



6:45:

おかしい。今日は髪の調子が悪い。
一度濡らしてドライヤーをあてる。思いのほか細い髪はただ風を当てるのではなく下を向きながら更に下から風を髪に送りふんわりとさせる。そこからソフトワックスで髪の流れを作るのだ。
だが、どうしても右後ろの髪だけが思っている方向と逆に跳ねる。ちがう。こんなんじゃないのだ。
くそう。
また舌打ちをしてハンドシャワーをもう一度握りしめる。



7:15

シャツは赤。
ネックレスはスカルデザイン。
ブレスはガチガチのシルバーじゃなくて皮。
留め金と両端がシルバーになっていて、ちらりと覗くその様がなかなか気に入って手に入れた。
リングホルダーから、うるさいのとそうでもないデザインのリングを選ぶとバランスよく両の手にはめる。
両手を前に突き出すと、ブレスとリングのバランスをチェックして悪くない、とゴーサイン。
これで、あの方に会う準備は整った、と笑む。
ふと鏡をみる。
首からぶらりとさがり鈍い光を弾くスカルデザインのネックレス。
それは先週末ツナが一緒に選んでくれたものだった。
もちろん、ツナの趣味ではないのは分かっていた。それでも一緒に悩みながらも一生懸命選んでくれるツナに心が震えた事を覚えている。
それは寝てる間に外すのすらも惜しいくらい大切なものになっていて。

ふにゃり。
思い出し嬉しさに思わず顔がゆるむ。


7:20

雨だからツナの分と自分の分とで2つの傘を手にもつ。
本当は1本置いていって、なおかつツナが傘を忘れてしまうのが理想的。
なぜなら一緒の傘に入らざるを得なくなるから。
でも、魂胆が見え透いているかな、と嘆息する。

それはまたの機会、と諦めて家を後にした。



7:40

「おはようございます!十代目!お迎えにあがりました!!」
「あら、獄寺くんおはよう!毎日ツナを迎えにきてくれてありがとう。」
とんでもないです!当然の事です!
にこやかに微笑む奈々にシャキンッと背筋をのばし朝の挨拶を続ける。
尊敬する十代目の母はもはや崇拝の域で、自然と恭しい態度に現れていた。
早く行け、このダメツナ!とリボーンに追い出されるようにツナが階段を転げるようにおりてくる。

玄関先に獄寺を見つければふんわり笑っておはようと獄寺に告げる。
胸にわき上がる嬉しさ。暖かさ。とびきりのドキドキ。

「おはようございます!!」

その声にビックリしたのか、ツナの目が見開かれる。
だが一瞬おいて困ったように、でもとろけるように微笑んだ。
「獄寺くん、君さぁ…」
獄寺の近くに寄ると、ちょいちょいと呼ぶように手招きをされる。何かと近づいて顔を寄せると。

「ずるいよ…」

頬にキス。
耳元で囁かれた笑いを含んだツナの声に、止まってた思考回路が一気に回転する。

「じゅっ、じゅっ、じゅうだいめっ…」

温もりが残るそこに思わず手を当てる。温もりが消えないうちに。
きっと真っ赤になっているであろう顔をみてまたツナが笑うと、もうどうでもよくって。
もうどうにでもなれな幸せな気分になって。



7:50

「傘持ってきてくれたの?ありがとう」
「いえ!右腕として当然ですから!」
そう告げると一瞬ツナが唇をとがらせる。何か不服な事があるように。
「…もぅ」
聞こえないように呟きため息をひとつつくと、獄寺を押しのけるようにドアを開ける。



「…あれ?」

差し込む陽の光。
先ほどまでの銀雨なんてどこ吹く風、きらきら溢れる朝の木漏れ日。
「あれ!?雨…じゃなくなってる…!!」

あわてて外に出てみれば、そこかしらに光る水たまりが雨だったよと証明するかのように朝の光をはじいて輝く。
薄いグレーの雲は傘を二つも手に持つ獄寺をからかうようにさぁっと空に別れて。隙間からとのぞく青。

「あはは!!!」

手の中にある2つの傘をもてあまして、途方にくれる。
その様をみて、ツナは更に笑い声を空にふりまいた。

今日も彼は男前である。
頭の先から靴の先まで隙がない。
ただひとつだけ、空のいたずらには勝てるはずも無く。
困ったように笑うその顔に、その紅くなる頬に。

ツナは今日も、恋するのだ。





X:XX:いつだって、どんなときだって、どんな君だって、ときめいて仕方ない。









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