隠された死神の村
□第7話(下)
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颶羅が死神になって久しぶりの現世。僅(わず)かな時間しか居られないが、行きたい所に行き、会いたい人に会ってもいいと。
今颶羅は自分の家に居る。颶羅の前には姉の靉娜が居る。
とりあえず、家族に会いたかった。会って、伝えたかった。謝りたかった。そして、聞きたかった…。
颶羅には愛する人が居た。だが颶羅は、うまく笑えず、想いを伝えられず、彼女をこれ以上悲しませたくないあまり別れを受け止めた…。
靉娜
「琉美ちゃん、あんたの葬儀に来たのよ?涙目で目を真っ赤にさせて…」
琉美──やっぱりお前も…。
颶羅は忘れられなかった。あの日、確かに別れを受け入れたはずなのに…。
琉美も同じだった。でなければ、そこまで涙を流す義理などない。想いも、漏らすはずがないのだ。
颶羅の葬儀の時、琉美は棺の前からなかなか離れようとしなかった。
琉美はただひたすら謝っていた。酷い事を言った。今も颶羅への想いは変わらない、愛している…と。
黙って聞いていた颶羅の目から、涙が溢(こぼ)れた。靉娜は驚いた。今まであまり笑ったことも、泣いたこともなかった颶羅が…。
靉娜
「琉美ちゃんから別れた理由…聞いたよ。琉美ちゃん、あんなこと言ったけどあんたが変わってくれることを信じてた。変わったでしょう?今のあんたは昔とは違う」
颶羅
「………」
靉娜
「会ってきなよ」
颶羅
「でも、オレは…」
靉娜
「グダグダ言わないの!あんたが死んでようがなんだろうが、今ここに居るのは事実でしょう?あんた自身が変わった姿を彼女に見せなくてどうすんのよ!!」
颶羅
「………」
靉娜
「このままだったら、あの子は一生悲しみ続けるよ?あの子、見た目より強い。はっきり伝えれば、喜んでくれるよ。悲しむこともなくなるから…」
颶羅は琉美のマンションの前に居た。なかなか踏み込む勇気が出ない。
苦羅兎努
「何を迷っている」
颶羅
「ぅわぁッ!?」
いきなりだったので思わず声を出して驚いてしまった。そこに居たのは苦羅兎努だった。
苦羅兎努
「迷う必要はないだろう。あんたは死神だ。どんなに頑張っても、戻れる事はない」
颶羅
「そう…だよな…」
厳しい言葉だった。一つの夢も見させてくれない、そんな言葉…。だが、その言葉が苦羅兎努の優しさなのだ。
颶羅
「きっぱり言ってこなきゃいけないな」
苦羅兎努
「…それに、あんたがこっちの世界に取られたら、俺がつまらない」
思いもよらぬ言葉だ。苦羅兎努がオレを必要とするなんて…。
颶羅
「分かった。行ってくるよ」
苦羅兎努のおかげで踏ん切りがついた。颶羅は微笑んでいた。
「…美、琉美…」
聞こえるはずの無い声。私、疲れで精神おかしくなったかなぁ?
颶羅
「おい!こっち向けよ!」
琉美
「えっ……?」
琉美は振り返った。これは…夢?疲れかなぁ?そしたら相当精神状態おかしいよね…。だって、彼は死んだんだよ?ここに居るわけないじゃない!
琉美
「夢…でしょ…?」
颶羅
「違う。夢じゃない」
颶羅の澄んだ瞳が琉美の心の中に現実を告げた。信じて…いいんだね。