明るいあの子に恋をした

□出会い
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今から半年前くらい。今日のようにどんよりと曇った薄暗い放課後。


そうだな。
ジャッカルと一緒に、いつも通り詐欺師コンビと試合してた時のことだ。



「一、二年生が少ねーけど、赤也までどうしたんだよぃ?」
「何でも、、、それぞれの都合が悪い具合に重なってしまったそうですよ」


その時は委員会だか、何だかの行事とか、とりあえず後輩がほとんど出払ってたんだよな。
レギュラーの赤也でさえ補習で来ねぇし。(因みにきっちり真田にどやされてたけどな)二年生の集まりも中途半端で―――結論から言うとボール拾いやら俺らの練習のサポート、自主トレその他諸々が追っ付いてなかった。


まーそんな情けない姿を晒してちゃ、これまた真田に「たるんどる!!」って一喝されるわけなんだが――その日は本当についてなかった。


「グラウンド100週だ!!」



ただでさえ部員が少ないこの状況から、更に人数を引くというのか真田よ、、、。

R陣以外の部員が真田の一言に、慌ててグラウンドへと走っていく。ったく――誰がボール拾いすると思ってんだよぃ!



「何を言っとるかぁ!!そんなものも自分で出来ないのか丸井!!」
「出来る出来る。、、、、チッ。めんどくせー」

口答えすると真田の拳が飛んでくらぁ。俺は大人しく真田に聞こえない程度にぼやいてから、コートに戻った。




あーったく!人がいねーのがこんなに面倒な事だったとは考えもしなかったぜ!!



「キャー丸井君ー!!」
「仁王君!!こっち向いてぇえ〜っ」
「柳生君かっこいいー!!」


、、、、、、。




見事に無視られてんなジャッカル!!




いつも部員が居るのならフェンス向こうにいるあいつ等をそこまで視界に入れることはなかったんだろう。

そこから飛んでくるのはキャーキャー立海のジャージ色もびっくりな黄色い歓声。

皆それぞれのお目当ての人物が居るのだろう。俺を含めた今ここで試合をしてる奴の名前が飛ぶ。

俺らはアイドルじゃねーっつの!!

いつもならガム膨らましたついでに手でも振ってやるところだが、今日の自分のコンディションの悪さに――いつもの光景ですら苛々する始末。まさかこんなにあいつ等の存在が煩わしく思える日が来ようとは、、、。

今更だが、、、普段の後輩のディフェンスっぷりに感謝の言葉が出そうだ。あんな目ぇキラキラした大勢の女子が丸見えとか嫌になる。

まだ幸いなことに試合に集中出来てはいるが、その集中が続くのも時間の問題。
周りに注意が行ってる隙を突かれるなんて事になったら今度こそ真田の拳が飛ぶ!

ふざけんなあの裏拳マジでいてぇんだぞ!!頬腫れて菓子食えなくなる!!


















パコンッ



「ぅげ!!」
「おーおーブンちゃん。集中してないと、1ゲーム簡単にとられちまうぜよ」


前方から、からからとした笑い声。
言わずもがな仁王だ。いつもの不適で掴みどころの無い笑みを浮かべ、ラケットで肩をトントンと叩いていた。余裕ぶっこきやがって、、、!


「こんの、、、っブンちゃん言うなッ!!」
「おいブン太!集中しろって、、、」
「っせーな!!後輩等いねぇせいであいつ等のキャイキャイした声五月蝿くて集中できねーっつの!!!」



「「「「  !  」」」


俺の渾身のイラつきの叫びが木霊した。
それはフェンスの向こうの女子にも完璧に聞こえる程のものだったらしい。



当たり前と言っちゃ当たり前だが――歓声が、消えた。


「おや、、、、」
「プリッ」


普段ファンの奴等になんぞそこまで気に掛けてない俺がイラついた様子を見せたのを、柳生は眼鏡をクイと上げて不思議がった。仁王は相変わらず意味わかんねーし、向こうじゃ柳がノートにペンを走らせている。今絶対余計なデータ取られた。真田が怒りに震えてるのが見えた。裏拳確定。畜生。



 


「ブン、、、」
「ボール!!、、、、拾いにいってくるぜぃ!!」


その場の空気と度重なる不運に耐えられず、俺は頭(かぶり)を振りたいのを必死で押さえつけ――フェンスの向こう側に飛んでいったボールの行方を追った。
くそっ、、、、ジャッカルにまで当たっちまうなんて、、、!!



















―――――――





「、、、、、、、くそっ」

ずんずんと大股でコート裏の林に来た訳だが、ボールの事なんてそっちのけで俺は頭を抱えていた。



(らしくねーぜ!
俺、、、いちいちこんなことでイラつく奴だったか?

あ。俺そういや今日菓子忘れてきたんだった。ファンの奴等から貰った奴と赤也から分捕った奴でなんとかしのいでたけどもう限界)


ぐぅぅぅうう〜〜


「おいおい、、、、」


限界、と俺の腹すら主張している。


こう考えてみると、、、俺ってファンに支えられてたんだな。
今更ながらさっきの自分の発言に恥ずかしさを覚える。

そりゃ確かに、、、俺をアイドルグループみたいな感じに見られるのは勘弁だが、俺にこうやって純粋に厚意でお菓子くれる奴だって居るんだし、、、(八割が厚意ではなく狙った好意だろうが)

ファンに支えられてるなんてそれこそアイドルグループみたいだけど、応援されるのは決して悪いことじゃない。(幸村君なら真っ先に「応援なんてされなくたって、全国三連覇に死角は無いよ」とか言いそうだな)
ただ度が過ぎてはいけないんだ。だから悪い印象になっちまう。


糖分補給しねーと、、、。つっても肝心の糖分はねぇ。


「はぁぁああ〜〜、、、、俺どうしたんだよぃ。マジで、、、らしくねー」


―――反省した所で苛々が全部消沈したとは思えない。いつどこでまた爆発するか、、、。とにかく今はボールだボール!気分を入れ替えろ俺!!




と。





頬をパチンッと叩いた時だった。





























 
 ズルッ








「ぎゃぁぁぁあああああああああああああッッ!!?!?」




俺の、、、、






俺のすぐ真横で何かがずり落ちてきた。































――――――――





「、、、、、、、、、、―――――!!」
「ど、どうしました仁王君!?」


丸井が去った後のコート。
気まずい雰囲気を察したファンの女子達は、ちらほらと居なくなっていた。

ダブルスのペアが居なくなったジャッカルの事を考え、一旦休憩を挟んでいたその時であった。


突然仁王が目を見開き、焦ったように丸井が消えた林の方へ振り向いたのだ。


仁王のペアである柳生は仁王のただならぬ雰囲気を察したのか、焦った声音で仁王に問いかける。


柳や真田、ジャッカルが見守る中――仁王は静かに口を開いた。










「丸井の霊圧が、、、、消えた!?」







「「「「、、、、、、、、、、、、、。」」」」









「今そう言うのいいから!!マジで!!!」




「プピーナ」

ジャッカルの必死の叫びに対しいつもの余裕を忘れず返す仁王。
呆れる柳生に、呆れすぎて物を言えない真田。またもノートに何かを書き込んでいる柳。


――場を和ませようとしたのか何なのか。
丸井が居なくなった後のコートは、コート上の詐欺師によって先程よりは柔らかい空気になっていた。





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