明るいあの子に恋をした

□少女漫画的展開
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青学コートにて。



「丸井!ユーリに何したんだよー!!」
「、、、、、こら英二。すまないな。あんなユーリを見るのは初めてだったから――一応、事情はわかってるつもりだけど俺達に出来ることがあったら言ってくれ」

「、、、、、悪い」



ユーリの後を追っかけてきたはいいが、競歩ですら俺の足に勝るスピードを持ってたユーリだ。追いつくわけがない。逃げ足速すぎだろぃ。


今追いかけてどうなる訳でもない。
むしろ、追いかけてしまってはいけないのかもしれない。
俺は一旦身を引いて、お互い落ち着いてから話をした方がいいのかもしれない。


でも―――



「いくない」


「いくないの、じろちゃん」





いつも笑顔のあいつがあんな無表情で走っていったら追いかけたくもなるだろぃ!

























「おい、、、、。戻らないのか」



ユーリの後を追って数分。相変わらず逃げ足が速い。俺ですら追いつくのがやっとって、、、どういう事だ。兄の芥川さんはここまで足速くないのに。

目の前で蹲る金髪がゆっくりと振り返る。
少し息の上がった俺を見つめた後ぐにゃりと顔を歪ませた。


「ぴよ、、、、、私、駄目だぁぁ、、、」

「何が」


何がなんて聞いてもわかってるようなものだけど。
丸井さん、か。それとも――


「わ、たし、、、今日、青学のマネ、な、、、の、に、、、、こんなとこで、自分が都合悪くなったからってぇ、、、、っ逃げちゃ、ったぁ〜、、、、!!みんなにめいわぐかけてるぅぅぅぅ、、、」

「やっぱりそっちか。、、、、、、お前昔から変なところ真面目だよな。っと」

「ぅえッ、、、、

―――っふぅお!?ぴよ!?たかいたかい!!?」

「落ち着け」

「もっちつけない!!」

いつまでも立つ様子のないユーリの脇に手を差し入れ、無理にでも身体を起こす。流石に不意を突かれたのか抵抗も少なく軽い体が持ち上がった。

最初はバタバタしていたがすぐに諦めて、泣きそうになっていた瞳を丸くさせて俺を見つめてきた。


「、、、、、、ぴよ、なんかでっかくなった」
「お前は成長しないな」
「女の子だもん」
「、、、、、、、、そう言えばそうだな」
「む。、、、ね、ぴよ身長いくつ?」
「172」
「亮ちゃんと並んだね」
「すぐ追い越す」
「えへへ〜おっきくなったねぇ」
「、、、、はぁ。ようやく笑ったな」


持ち上げてた身体を降ろす。地面に足をつけたユーリと対峙すると、改めて小さいなと思った。最後にこうしてお互い向き合って会った時はもう少し小さかったから、こいつもこいつで身長は伸びたんだろうけど――俺が大きくなってしまったから、、、こんなにも小柄に見える。


中学生になってから、こんなに小さくて危なっかしいお前が青学に行くとか言い出したときは――何の冗談かと思った。でも、元気でやっているようだからと安心した矢先、二年に上がってから青学から立海にまで行くとは予想していなかった。


大体芥川さんが憧れている人に、お前も憧れたんだろうなと思ってた。事実それは当たってた。でも―――



「あの人の、、、丸井さんの何処がいいんだ。テニスか?」
「ん、、、、、、と。最初はそうだったかもしれない」
「、、、、、、今は」

「今は、丸井先輩のテニスも、丸井先輩も好きだよ」


、、、、、、まだテニスは納得できるが、あの人自身何処が好きなのか。


「私が煩いから丸井先輩が迷惑してて、だからみんなから見たらアレな印象になっちゃってるのかもしれないけど、、、、本当はとっても優しい先輩なんだよ」


、、、、、、。


「後輩思いだし、友達思いだし、皆が暗い時にぱっと明るい気分にさせてくれるんだ」


だからなんだ。


「丸井さんは、お前をそういう気分にさせてくれるのか?」
「え?」
「丸井さんがどういう人なのかはお前の言うとおりの人なんだろう」


だけど、肝心のお前がそんな態度取られてちゃ意味ないだろ。

確かにお前の――一度好きになったものへの好意は芥川さん以上に、なんていうか、ん、、、引かれるレベルだけど。

お前の好意は邪なものなんかじゃなくて、純粋なものだろ。何度お前の曇りない笑顔に俺がほだされたと思ってる。

お前の笑顔を見ても、お前の恥ずかしいくらい真っ直ぐな言葉を聞いても、相手がどうとも思ってなかったら、、、、


「お前の良い所も見つけられないで否定ばっかしてるくらいなら――」

「ぴよ」


「、、、、、、、」

「へへ〜、、、ありがとう、ぴよ。私みたいなのに、そんな風に言ってくれて。

んーそうだな〜。その考えで行くと――私の良い所を知ってくれてる人には、それがわかるのかもしれないけど、、、丸井先輩は半年前に会ったばかりだから――ただ煩い後輩にしか見えないんだよ」

「っだけど!!」

「事実なのー。私だって、、、そりゃ今はち〜っと凹んじゃってるからネガティブ思考だけど、、、。
今は、今はね?丸井先輩が気持ちよくテニスが出来るように、目立たないように応援するのが一番なんだぁ。



そんで、全部終わってからまた、丸井先輩の迷惑にならないように応援するの」


そう言ってユーリは何でもないような顔をして、にっこりと笑った。 

俺はそんなユーリを前に、予想していたけれど当たりたくはなかったその答えに目を逸らす。

お前がそう答えるだろうってわかってた。

けど、、、、やめろよ。
そんな事言ってそんな風に、笑うな。
せっかくまた笑ったのに。笑顔が痛々しく思えてしまう。

でもそれは紛れもないお前の本心だから、痛々しいなんて思ってはいけない。だからこそ何を言っても俺はお前に何も出来ない。

せっかく、、、、会えて、二人でこうして話せたのに。

――慰めも出来ないのか俺は。

あの頃よりお前は大きくなったのに、笑顔も、一途なのも直球そうなのに意外と弱い所もずっと変わらない、ユーリ。

俺だってあの時と変わらずお前の理解者で居られると思っていた。

『ああそうか。頑張れよ』って――その、一言が言えない。




何で、何で、、、お前はそんなに馬鹿なんだ。


そう言いたいのを必死に押し殺して、俺は何事もなかったようにため息をついた。


「はぁ、、、、全国大会終わって応援も何もないだろ」

「あッ!!!」

「フン、、、、、、ばーか」
「ばか言うなC!!」


でも、、、、そんな馬鹿だからほっとけないんだろうな。
いつまで燻っていても――お前の馬鹿みたいに安らぐ笑顔を見てしまえば、もう何も言わずに応援してしまおうと、思ってしまう。


「おい、ユーリ」
「んー?」
「丸井さんのこと、好きか?」
「大好きだよ!」


ああ。なんて眩しい。目を背けたいくらい。

――お前の居場所は此処で、もう氷帝ではないのは明白だ。ユーリは自分が決めた道を進みたいように進む奴だから。
、、、、ちょっと寂しいと思ったのは絶対に言わない。


「、、、、、、、、。」

けど何も言わず、何もしないで引き下がるのは少し悔しい。



「ユーリ」
「なぁに?」
「、、、、、、お前、丸井さんにいつかは告白するんだろ?」


俺が至極当たり前のことを聞くと、ユーリはやっと自分のペースを取り戻してきたというのに、それを一瞬で爆発させるほどの勢いで叫んだ。


「ここここここここ告白だと!?おまッちょ、私はそんなつもりじゃ、、、」


どんだけ動揺してるんだこの馬鹿は。


「フッ、、、なんだ。じゃあ其処まで好きじゃないのか?」
「ちげーC!!私の丸井先輩への愛舐めんなC!?」

「そうか、――よっ」

「わぉっ!!?ぴよ今度はなんだ!!」


相手のくるくるした触り心地の良い髪を、両手でくしゃくしゃにする。犬みたいだ。純粋に可愛いと思う。


「ぷっ」
「こらぁ!!ぴよー!!何すんだC!笑うなぁ〜!」

ピョンピョンに跳ねた金髪を見て噴出してしまった。

『ぷんすか』とか、そういう表現が正しい怒り方をするユーリの髪をもとに戻す。サラサラでいつまでも触っていたい髪から名残惜しげに指を抜く。

「?、、、、ん」

(いい香りがする)


ふいに金の髪から香ってきた匂いにふ、と目を伏せたくなった。
―――だが、気付けば俺は目を伏せるだけでなくユーリを抱き寄せてその髪に顔を埋めてしまっていた。

(この際、もう――いいか)


「ぴ、」

すん、と――鼻を上下に動かすと、腕の中のユーリの身体も上下に動いた。否――跳ねた。か。


「ぴょぇぃッ!!」

「シャンプー替えたのか」
「あああああああれから二年もたたたた経ってるのにシャンプー変わらないほうがががががおかしEEEEEEEE」

「何動揺してるんだ」
「だってぴよ、、、、!!いきなりこんなことすんだもん!!!」
「、、、、これくらい忍足さんにもされてただろ」
「忍足先輩はっちがうくて、慣れてるってか、、、今のぴよとはとにかくちがうの!」

(慣れてるってなんだよ、、、ムカつく)

「それに、、、ぴよこんな事、、私にしないC!」

バッ

あまりにも暴れるから解放すると、顔を面白いくらいに真っ赤にさせたユーリと対面した。  


「っ、、、、、な!」


茹蛸かお前は!!と思うほど、そんな顔見るのは初めてだったので――つられて此方も赤くなってしまう。熱が集中するのが自分でもわかる。畜生頬が熱い。

オロオロとどうしていいかわからないユーリを前に、何か言わないと、と苦し紛れに返す。

「、、、、し、したくてしたんだ。悪いか!」
「悪E!!」

即答かよ!!

「っ抱き締めるのがそんなに悪いか!」
「そうだよ悪E!!」


ああもう。





「俺がお前のこと好きだって言ってもか!!」














やはり俺には何もしないで引き下がるなんて無理そうだ。


















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