明るいあの子に恋をした

□それだけはわかった
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気付けば時計は長い針が12の所に来て、短い針が6を示していた。

あれからどうなったのか覚えてない。
今時分、何故歩いているのかもわからない。
何があったのかは、思い出せるんだろうけど――なんとなく思い出さなくちゃいけない訳でもないかな、なんて思って、記憶の隅に『何かあった』という事実だけを置いといた。


「あ」


思い耽るのを止め、歩いている方向へ目を移せばスーパーがあった。
夕飯時だからなのか結構な数の人が行き来している。駐車場は車が出たり入ったり。

ランドセルを背負ったまま何人かでガチャポンで遊んでる小学生、子供の手を引きながら歩く親、会社帰りの中年の男性、リアカー押してまで買い物へ来たおばあちゃんまで様々な人が居た。

うん。

いつも生活のお世話になってる何の変哲もないスーパーの光景が、目の前にあった。




(買い物、、、、そうだ。買い物。桃城君のお弁当に全部使っちゃったから、買いに来たんだ)



元々、桃城君が今日来るというだけあって、あるもの全てで補えば――残り物から賞味期限が危なげなものまでを使用することになった。
お金を一切使わず、わかっていながらも昨日の内に買い物に出かけなかった自分がずいぶんせこいなと実感してみたり。

考えてみれば十分失礼な事だ。

桃城君には残飯処理班みたいな事させちゃったな。
今度はちゃんとしたので作ってあげよう。

だがしかし昨夜あの材料だけであそこまで作った自分は賞賛に値する――なんちて。


ポケットには財布の感触がしたから、多分――何故か記憶は曖昧だが、私はここに買い物しに来たのだろう。スーパーに来て買い物以外の何があるって話だけど。




「いらっしゃいませ〜」


目に入る店員が、こっちに気付いてお決まりの台詞と共に頭を垂れる姿を見て心の内で(くるしうない)とか遊んでみた。結構楽しい。

今日はそこまで買い溜めしなくてもいいかな。と家の冷蔵庫にある必要最低限の食材達を思い出しながらぽつり。

今日何にしよう。
そういやあそこの焼肉屋今冷麺祭りしてたなぁ。焼肉いいなぁー。冷麺もいいなぁー。
冷麺もいいけど温麺もいいな。さっぱりするのもいいけど、ちょっと暖かいのも食べたい気分。

あそこのキムチ美味しいし、キムチ味の何かでもいいかも。んー、、、。てかキムチまるごとでもいいかな。あはは〜口臭くなりそ。
うーいやいやここは敢えてビビンバと言う手もアリだね。ってかこんなことばっか考えてると直接食べに行きたくなっちゃう。


「あー、、、石焼ビビンバ食べたいなぁ〜」


でも外食は控えないと。お金は大事大事。
せめて焼肉食べ放題とか、そういう時に行こう。




食材を求めてうろうろする事30分。
いつもなら15分もあれば何を買うか即座に決めて会計を済ませてるのに、私はまだ冷凍食品コーナーあたりを歩いていた。きっと謎の記憶障害のせいだ。いつもなら買うものきちんと決めてからくるし。


「から揚げ、、、岳人くん喜んでくれてたなー、、よかったぁ」


から揚げコーナーにてふと岳人くんの顔が浮かんだ。

岳人くんも私も好きなから揚げのパッケージ。お弁当に入れるのには最適なから揚げなのだが、そのパッケージを見て今日のお昼をふと思い出した。
跡部さんと忍足先輩には流石に好きな食べ物は作って上げられなかったけど――氷帝の皆が来るってわかってたから、多くはなかったけどみんなの好きな食べ物用意できた、と思う。


青学の皆にも好評だったし――もとは桃城君のお弁当だったけど、皆が美味しく食べてくれてよかった。リョーマ君は何が好きなのかわからなかったけど卵焼きふわふわって言ってくれたし。出し巻き卵は奥が深いぜよ、、、。なんつて!


「、、、、、、、、、、、、、、あ〜。」


仁王先輩の真似して、立海の人達の事がフラッシュバックするように頭の中に飛び込んできた。一瞬にして黄色いジャージが頭の中を埋め尽くす。――頭に浮かんでるだけなのに、直接その色を見ているみたいに目が痛くなる。

思わず目頭を押さえてしまった。


幸村先輩にお弁当渡した時、丸井先輩がせっかく声をかけてくれたのに――逃げちゃった。
本当は嬉しくてしょうがなかったのに。丸井先輩から声をかけてくれるなんて滅多にないから、本当は、本当は、、、、。

でも嬉しすぎて迷惑かけそうだから。
じろちゃんやみんなが見てるから、少しは自重できそうな気がしてたけど、、、あのまま後ろに逃げなかったら危なく全速前進してたと思う。


幸村先輩、皆に差し入れ分けてくれたかな。
丸井先輩、食べて、くれたかな。


私の料理でも、
―――美味しいって思ってくれたかな。

笑顔に、、、なってくれたのかな。



丸井先輩が美味しそうにご飯を頬張る姿を想像した瞬間

押さえつけた目頭が、少しだけ緩んだ気がした。




「、、、、、、、〜やめよ。こんな事思い出すの。
わかんないこと思い詰めたって疲れるだけだよね」


心の中で思うだけじゃ物足りなかったらしく、自然とその言葉は口から出てきた。自分を暗示させるようなその言葉に――一つ頷くと、目当てのものをカゴへ入れてレジへと向かった。























「お会計、5,782円になります」


「、、、、、、、、、、、、、、、、、、げッ」


お会計の金額を告げられた瞬間、即座に財布の中身と相談をする為にがま口を開けた。
がぱりと音を立てた財布の中身を凝視。震える指先で細かいお金とお札を瞬時に確認する。


「、、、、、、、、、、、、、、、はぁッ」


、、、張り詰めていた息を吐き出す。緊張のあまり冷や汗がこめかみを伝った気がした。もーどんだけだよ〜。
財布の中に入っていたお札は樋口一枚と英世が二枚。
いつもより大目に持って来てて良かった、、、!ぐっじょぶ昨日の私!今日買い物行く予定だったもんね!!

あった!!
あった!!ギリギリあった!


「あっt」
「あの〜お客様、、、」
Σハッ

あまりの喜びにガッツポーズのままでいた私は、後ろに並んでるほかのお客様の白い目による冷めた視線を一身に受けた。







「ん〜ラッキー!!」


会計を済ませ、山吹の千石さんの真似(?)しつつエコバッグに買った物を詰める。エコバッグを持ってたのも奇跡に近いと思う。私は記憶がないながらも、今日の部活が終わった後買い物に行くと言う事だけは本能的に覚えていたらしい。すごE!私ー!

その時――


「おんもッ、、、、!!」


有頂天になっていた私を苛むかのように、手にのしかかる重力。

重い荷物もなんのその〜とか思ったけど重い!!想いが重い!!ごめん!!自分で言って気抜けた!


「ぐぬぬぬぬうぬ、、、、、」


いつもなら平気なんだけど、、、今日は牛乳とか一気に買っちゃったから重い。自転車で来ればよかったと思いつつ、私の自転車はパンクなうで故障なうで自転車屋さんで修理なうな状態なのだ。頼るものは残念ながらない。


「くうぅぅう、、、、。お金はなんとかなったけど、、、いつもならちゃんとお会計する前にどれくらいになるのか計算してたのにぃ、、、」


あろう事か今日それを忘れていたのだ。
買い物をする身としてはこの事実は自殺行為にも程がある。樋口と英世には感謝しなくては。
まさか後の金額も考えずポイポイと食材をカゴに積んでいたのかと思うと――現状共々情けないと今にもうな垂れたい気分である。


「重い、、、。も少し考えて買えばよかった」


牛乳こんなにいらなくね?
これホントに要るの?
賞味期限とか消費期限を見て買った?


――などと、思い返せば其処まで必要としていないものも買った気がしてならない。こんなに重いとそう思ってしまう。なんと情けなC。


、、、、、反省点が多すぎる。
ボーっとしすぎ。だから記憶吹っ飛んでんだよ。


今日は、、、コンディション最悪だなぁ。
あ、でもこんな時なら。


「ぴよなら計算速いのに。頼んでもないのにレジ行く前にお会計言っちゃうんだもん」


氷帝に居た時、おつかいで今のように一人でスーパーに出かけた時――たまたまぴよと遭遇して一緒に買い物をしたことがあった。
ぴよはぬれせんべい買いに来ただけだから、もう会計済ませて帰るだけだったのに、態々買い物付き合ってくれてさ。


「お前は危なっかしいから終わるまで見張る」


とか何とか言っちゃって〜。
見張るってなんだよー。ぴよ、それ見張るじゃなくて見守るじゃないの?って思ったけど言わないでおいた。拗ねそうだC。


私の買い物メモ見ても居ないくせに、あれはあっちだとか、その卵は多分特売って書いてるだろとか、、、全部わかったような口ぶりで。


実際合ってたんだからぴよはすごい。


ぴよと行く買い物は楽しい。会計前のぴよの会計予想はいつもの事だし、レジはちょっとした答え合せの場だ。会計の数字が一文字も違えて居ない事を確認した時のあのどや顔を、私はこれからも忘れる事はないと思う。さすがそろばんの王子様と言われるだけあるぴよだ。因みに言ってるのは私だけだ。

買い物中の会話ではぴよは相変わらずつんけんした物言いをするけど、優しくないわけじゃない。むしろその逆だ。優しすぎる。



自分の予定まで気にもせず私に付き添ってくれるぴよに、余計なお世話ですー。、、、なんて軽口叩けないくらい頼もしくて、、、付き合ってもらっちゃったのに荷物まで持ってもらっちゃったなぁ。んー。紳士!

あ。でも紳士ってのは少し変だな。当たり前だけどぴよはジェントルマンこと柳生先輩のような物腰じゃないし。

そうだなぁ――ぴよは、友達ってのと同時にじろちゃんとはまた違った『お兄ちゃん』のような感じもした。

そう、


「終わるまで見張るって言っただろ」


目を逸らし少し顔を赤くしながら、家まで見張(送)ってくれたぴよを見て――家に着くまでがおつかい、わかったか。って言われたような気がした。


同い年なのに、良い意味でも悪い意味でも中学生らしくない、大人っぽくて、頼りになって、なんか――お兄ちゃんみたい、かな?って思ったんだ。あ、じろちゃんが頼りないって訳じゃないけどね。じろちゃんはちゃんと私のお兄ちゃんとして十分過ぎるほど、お兄ちゃんしてくれてる。、、、何だか言い方が悪いな。

どっちかって言うとじろちゃんは『お兄ちゃん』の域を越した存在だから、いいお兄ちゃんって一言だけじゃ片付けられないって言うか。よくわからないけど、そんな感じ。

おっと話が逸れた。ぴよの事ぴよの事。

ふーむ。頼りがいがある部分ではテニスの面でもそう思う。ぴよが試合出た時の期待度は半端ないと思う。私も、、、ぴよがテニスをする時は勝つって信じてるし。ぴよの演武テニスはそう簡単に打破できるようなものじゃないしね。
、、、、勝てない時もあるけどね!!

ボブ術、、、じゃない古武術!古武術も習ってるから強いし、えーと、うん。肉体面でも頼もしいとは、、、今更ながらぴよすげーな。

実際部活でもその成績から次期部長が決まってるし。

考えてみたら本当にぴよに助けてもらってばっかだった。
一人暮らし歴二年だけど、こうやってぴよが居てくれたらなぁなんて考えてしまう内はまだまだ甘えてる。

小さい頃から一緒だったと言っても、あんなにも私とはかけ離れた存在のぴよ。

いつも――そんなぴよと一緒に居る事ができたんだなって思ったら、嬉しい反面寂しくなった。




「見張るって、、、。おいおいぴよ〜っ」




だからそれ見守るでしょって、からかったら怒るんだろうなぁ。
あの時も、今も。



「ふふっ、、、、」


ぴよの赤い顔思い出したら、重いのなんて気に掛けることもなく私は帰路に至った。ホント、ぴよって目の前に居なくても頼もしいんだからな。


そんなぴよを思い出しちゃったからって、『会いたいなー』なんて少しでも思っちゃった私は――きっとずるいんだと思う。



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