ノベル2
□哀色
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「シンジ君、晩御飯出来たよ」
あれからずっとシンジ君は椅子に座り続けている。よほど拗ねているらしい。
「今晩は、カレーにしたんだ。僕はあんまり料理は得意じゃないから、味は保障出来ないけど」
返事がないことにも構わず、彼の前にカレーを盛った皿を置く。
「リリンというのはすごいね。ばらばらの食材なのに、上手く一つの美味しい料理にまとめあげてしまう」
自分も皿を取り席につく。
「リリンをうらやましいと思うことなんて永遠にないと思っていたけど、料理が出来ることは正直うらやましいよ」
少し苦笑いして彼の蒼い目を見るけれど、そこには滑稽な僕が空しくいるだけだった。
「じゃ、そろそろ食べようか。いただきます」
潰れそうな心臓を抱えたまま、ただただカレーを食べた。味なんかわからなかった。一口大に切られた人参も、じゃが芋も、柔らかいプラスチックにしか思えなかった。それでも僕は馬鹿な位カレーを食べた。
「あれ、シンジ君食べないのかい?」
ふと彼を見ると、スプーンを持ってもいない。
「ひょっとして気分でも悪いのかい」
確かに今日のシンジ君は顔色が悪い。額に手を当ててみる。
「冷た!大変だ、すぐに暖かくして横になった方がいい」
僕が抱き抱えると彼はされるがままに、だらんと手足を投げ出した。
(全身冷たいじゃないか・・・)
彼を出来るだけ丁寧にベッドに横たえて、ありったけの毛布や布団でくるんでやる。
「おやすみ、シンジ君・・・」
僕は何故か瞼を閉じようとしないシンジ君の唇にくちづけて、皿を洗うために、一旦部屋を後にした。