ノベル2
□Hz《ヘルツ》
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黒い鉄の柵を開けると、白い十字架がぽつんと二つ建っていた。
「来たよ、渚」
僕はそのうちの一つの小さな十字架に話しかけた。
ここは一番初めに僕達が出会った場所。
今は元の教会は取り壊されたけれど、また教会が建てられた。そこへ、神父に頼んで、渚の墓を建ててもらったわけだ。
この教会には墓地はない。渚の墓がぽつんとあるだけだ。あ、あと猫達の墓。
「猫達元気してるって」
神父が作ってくれた椅子に座り、背中のものを降ろす。
「アスカも僕も元気。世の中も平和。でもアスカってさ、思った以上に家事出来ないんだ。みそ汁とかさ、ダマ作っちゃうんだよ。掻き混ぜるだけなのにね」
寒さで上手く動かない手で、弦を押さえる。大きなチェロは、僕を安心させた。腕を引き、弦を震わす。凛と響くB♭。
「あとさ、青葉さんがバンドでメジャーデビューしたよ。びっくりだよね。ネルフいたときは気づかなかったけど、結構ギターは上手かったみたい。」
しばらく調弦してから、僕は改めて墓を見た。わかってる。これは、ただの石だ。でも、渚なら、きっと見ていてくれる筈だ。遠い所から。
「ちゃんと聞いててよ、一回だけだから。」
ちょっと笑ってから、僕はまたチェロを弾き始めた。