ノベル2

□哀色
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ことの起こりは昨日、土曜日のことだった。
その日はどんよりとした曇り空で、僕もシンジ君もあまりすっきりとした気分ではなかった。
だがその気分は、曇り空のせいだけではなかった。

「どうして連絡してくれなかったんだい?一緒に帰れないって」
「だから、携帯の電池が切れてて」
「証拠は?」
「そんなのあるわけないじゃないか!」

いつになくうんざりする。シンジ君にでなく自分にだ。どうしてこんな小さなことで怒っているのだろう。昨日学校の帰りに、一緒に帰れなかったからなんて。

「カヲル君どうしたの?なんか今日、変だよ」

訝し気な目をするシンジ君に、酷くたじろいだ。

「シンジ君が嘘なんかつくからじゃないか!」

思わず思ってもいないことを口走る。違う、そんなことを言いたいんじゃない!

「なんで僕が嘘なんかつかなきゃいけないのさ?!それこそ証拠は?」

いつもは軽く喧嘩してもどちらかが折れるのに、このときに限ってどちらも折れなかった。

「ないけど」

言いながら大きな嫌な焦りに襲われる。この頃いつも感じている焦りだ。
シンジ君はあまり自分から好きとは言わない。それが恥ずかしいからだとはわかっているけれど、それでも不安になる。
本当に、シンジ君は僕のことを好きでいてくれているのだろうか?

「ないって・・・。それでよく僕に証拠とか聞けたよ」

冷たい目で僕を見るシンジ君。嫌だ、お願いだから、そんな目で僕を見ないで!僕を、嫌いにならないで!

「こんなカヲル君」

そしてシンジ君はその言葉を放った。

「嫌だ」
「っ!」
「う゛っ」

シンジ君に嫌われたくなかった。僕を嫌いだと言うシンジ君の声が怖かった。だから、彼の声を、言葉を止めようとした。

「ぐはっ、痛いよ、苦しっ、やめて、カヲル君、やめて!!」

どうすればいいかわからなくて、頭が真っ白だった。でもとりあえず首を絞めていればシンジ君は僕の名前を呼んでくれた。だから、手を放せなかった。

「カヲル君っ!!」

離さなきゃ、手を離さなきゃ(でも離したらシンジ君は僕の名前すら呼んでくれなくなる?)
離さなきゃ!手を、離さなきゃ!(嫌だシンジ君が僕を嫌いになるなんて嫌だ)



ぐっ、と親指に嫌な感触。それきりシンジ君は黙ってしまった。黙るどころか、立つことさえやめてしまったのか、手を離すとシンジ君はぐったりと倒れ込んでしまった・・・。
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