私はあなたに本当の恋をした
□不二の家へお泊り。 目的は・・・
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ちょくちょく部活動生からの視線を受けながらテニスコートまで行くと、不二が1年生なのに、もうコートに立っていた。 つーか、何か手塚が部長ぽくない? あれ?? 1年だよね?
菊丸「あれれ? 名前と不二のお姉さんだ。 こんなトコで何してるのかにゃ?」
『ちょっと… ていうか、何で手塚が部長ぽいの?』
聞くと、英二が笑いながら説明をしてくれた。
菊丸「ちょうど昨日、レギュラー決めのランキング戦があって、高校では学年関係なく全部員でやるらしくてさ。
手塚と部長が当たって、手塚が6−0で勝っちゃって… 部長が手塚に部長になるように頼んだんだ。
だから、今は手塚が部長! 凄いよね。 俺はちょっと苦手なんだけどι でも、尊敬はしてるんだにゃ」
説明が終わると、タイミングを計ったように手塚が英二に怒ってグラウンドを20週走るように言った。
『頑張れー』
菊丸「人事だからって! 覚えてろよーっ」
テニス部員からは私と由美子姉さんが見えなかったようで、あっという間に戻ってきた英二に誰と話していたか聞いていた。
倉庫があるから、部員からは見えなくても当然だったんだけど、ね。
由美子「周助ったら、あんなに強かったの? 実の弟ながら、怖いわね」
『去年の全国大会辺りで、急激に強くなったからね』
ふとテニスコートの外を見ると、三上さんがコートのフェンスに張り付いて必死に何かを見ていた。 多分、不二だと思うけど。
由美子姉さんを近くの日陰のベンチに座らせて、三上さんの近くまで歩いていった。
『三上さん』
声をかけるとこっちを向いて、明らかに顔が歪んだ。 そんなに私が嫌いなのだろうか。 まぁ、嫌いだからそんな顔をするのだろうと思うけど。
テニスコートの前で言い合うのは、手塚に怒られそうだから、人気のない場所に移動した。
三上「苗字さん。 …どういうつもり? 不二くんは私にくれたのよね?」
『あら。 誰も“ずっとあげる”とは言ってないわよ』
三上「屁理屈…っ そんなだから、不二くんを信用出来なくて、ケンカなんかするのよ」
三上さんは顔を更に歪ませて声を荒げた。 だけど、私はそんなの怖くないの。 過去に、もっと怖いことを体験したから。
『だから? 仲直りできたのだから、もうケンカなんてしてないわ。 それに…まだあなたから返してもらってないわよね?』
三上「な、何をよ…っ」
『ネックレス。 あれは元々私のものなの』
そこまで言って、ハッと我に返った。 こんな言い方、私が最悪女みたい。 1度あげといて、こんな言い方はないわよね。
『ごめんなさい、言い方が悪かったわね。 でも、あれは私にとって大切なものなの。 返してくれるかしら?』
手を差し出して言うと、三上さんは怖い顔をさせて、どこから持ち出したのかカッターで私の腕を切った。
『っ、返してくれないのね…』
三上「当然でしょ!? 大体、あなたは勝手すぎるのよ! あなたのせいで、大勢の人が悲しんだの」
『大勢の人…? 具体的に言ってちょうだい』
切られたところをハンカチで押さえながら、事情を聞いた。
三上「最初は、あんたと不二くんが付き合い始めたときよ。 その時は、あんたも顔が良いし、大半の人が不二くんを狙うのを諦めた。
だけど、3学期になってあんたは姿を消した。 不二くんも悲しんでた。 そこで皆は思ったのよ。“今なら不二くんを狙える”ってね。
だけど、入学式になってまたあんたが現れた。 あんたは何なの? 不二くんを振り回して、周りの人も振り回して・・・っ」
・・・知らなかった。 3学期にいなくなったといえば、その頃私は元の世界に戻っていた。 悲しかった。
だけど、周りの人はそれ以上に悲しかった。 ならば、私はどうすればいい? 身を引いて不二をアイドル的な存在に戻せばいい?
だけど、不二はそれをきっと望んでいない。
1人でも近くに和解者がいた方が良い。 だけど、そうすれば周りが悲しむ。
じゃあ、どうすればいい・・・・?
三上「だから私は思ったのよ。 あんたから不二くんを奪って、また皆が笑顔になれるようにしようって」
嗚呼…この人は何てお人よしなんだろうか。 私から不二を奪って自分のものにすれば良いのに。
三上「そういうわけで、アンタは邪魔なの。 死んでちょうだい」
と言って、カッターを私に投げてきた。 かといって、それを避けられないほど動体視力は悪くない。
それを避けてカッターを拾うと自分で刃を手首のところへ持って来た。
三上「…呆れた。 自分から死ぬつもりなの? まぁ、それでも良いけど」
『そうね。 そうするのも良いわね。 だけど、そんなことしたら不二との約束を破っちゃうわ』
三上「約束…?」
『約束したのよ。 “もう2度と、自殺行為を起こさない”って。 それまで、私は何回も自殺行為を起こした。
でも、ダメだった。 私は絶望していた。“何で死ねないのっ”て。 でも、その時不二が助けてくれた。
私は不二が必要なの。 あなたたち以上に』
三上「だから何なの。 私たちだって不二くんが必要なの! また、あの優しい笑顔を私たちに向けて欲しいの!!」
そう言って、三上さんは泣き崩れた。 本当に、私はどうすればいいの? 自分の我儘で、周りの人が傷つき悲しむのなら、いっそのこと死ぬ・・・?
私はカッターを持って、歩き出した。 屋上に行くしても何をするにしても、どうしてもテニスコートを横切らなければならない。
未だに滴り落ちる傷口を見て、まずは保健室か… なんて、冷静に考えていた。