小説

□CANON†CANON[完]
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「私に力を貸してネ」
 セーラー服を着た長い黒髪の高校生くらいの女がクスリと微笑んだ。
 


 少女が目を開くと、知らない町並みが建ち並んでいた。
 空を見上げれば、月が穏やかな光が注がれる。

 名にも思い出せない。
 なぜココにいるのか…。
 自分の歳、名前さえも…。
 唯一思い出せた単語を言葉にする。
「ユー…ヒ…。」
 何故かその単語が人の名前で、よく知る人物の名だと思った。
 その人を探さなければと―――。

 人も、街の明かりさえも無い。
 闇夜の街を何かに引き寄せられるようにピエロの格好をした少女は歩き出した。




 当ても無く歩いていると、向かいから一人の女のこちらに歩いてくる姿が見えた。
 整った顔立ちに鋭い漆黒の瞳と眼鏡。
 腰ほどまである長い黒髪は後ろで一つに結っている。
 薄い黄土色のYシャツに黒のブレザーと紅色のネクタイ。
 スカートは赤紫色に太い黒ラインが1本引かれている。
 黒ストッキングとこげ茶色のローファー。
 歳はおそらく高校生。
「夕緋(ユウヒ)」
 少女が名を呼ぶと、夕緋は一瞬わずかに驚いた表情を見せたものの、鋭い目をより鋭くした。
 嫌悪の氷のような冷たい瞳。
「ドール」
 幼女の中で、何かが脈打った。
(コロセ…夕緋ヲコロセ…コロセ)
 頭に誰かの言葉が響く。
 それはまるで、じわじわと毒に侵されていくかのように―――。


「コロセ…コロセ」
 とり憑かれたかのようにドールは夕緋に飛び掛った。
 が、一瞬にしてドール体はバラバラになり、地面に崩れ去った。
 切られた所から血は全く出ていない。
「…もう人形遊びをする歳でも、そんな暇もない」
 顔色一つ変えず、まるで人形のように無表情でドールを見下ろした。
 夕緋の手にはいつの間にか、彼女と同じ身長ほどの剣が握られていた。
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