小説
□最勇姫
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街から少し外れた小さな村があった。
その村は度々魔物に襲撃されることがあり、人々は震え上がっていた。
だが、三蔵法師一行が村近辺まで来ていると、人々は噂をしていた。
「三蔵様…一体どんな方なのかしら」
「きっと強くて、紳士の素敵な殿方だわ」
「もし、そんな方にお近づきになったらどうしましょう」
おなご達は頬を染め、男達は村が救われると喜びの声。
「そこの美人のお姉ーーさん達」
噂をする2人の村娘の背後から声がした。
2人が振り返ると、そこには…。
腰まであるおうど色の髪色をなびかせ、にっこり笑う美女がいた。
着物を着崩させ、左の肩を露出させていた。
その美女は、村娘たちに深く頭を下げこう言った。
「胸…揉ませて下さい!!!」
彼女の…否、彼の名前は八戒。
巨乳好きの女好き。
ちなみに、心は男である。
*
暖かいお日様の下。
気持ちよさそうに寝息をたて、丸まって眠る幼い子ども。
少年に寄り添い、うっとりと愛おしそうに少年を見つめる女性。
傍からみれば年の離れた姉弟にしか見えないだろう。
「悟空…」
女性は少年の柔らかい髪をそっと撫でた。
「全く…嫉妬してしまうね」
穏やかで優しい声がし、女性が顔を上げた。
そこには長い髪を後ろで結い、鮮やかな緑色の瞳をした男が立っている。
男は女性に微笑みかけたが、彼女の表情は眉ひとつ動くことはなかった。
「悟空はズルイね。いつも貴方の愛情を―――」
「沙悟浄…、黙りなさい」
言葉を遮った低い声に沙悟浄は口を堅く閉ざした。
だが―――、
「ね〜ね〜〜〜!!乳くらい揉ましてくれたっていいじゃないか!」
大きな声で村娘達を追いかける八戒の声。
その声に悟空は顔を歪ませ堅く目を瞑った。
「…」
女性は錫杖を掴むと、八戒に向かって思い切り振り下ろした。
「黙れと…言ってるだろうが!!!こンの…黒豚が!!!!」
「否…、そんな事八戒は初耳だと思うんだが」
地面に突っ伏し、大きなコブをつくって気絶する八戒に憐れみの眼差しを向けた沙悟浄であった。
彼女こそが、この物語の主人公(一応)…三蔵法師である。
三蔵法師一行は宿に場所を移し、部屋でおのおのに寛いでいた。
「ほんっとに信じらんねえ!!」
八戒は痛む頭を押さえ、三蔵を睨み付けた。
「あの可愛いこチャン達とこの暴れ馬女が同じ性別とかありえねえだろ」
「君も外見の性別は…」
苦笑いしながらツッこむ沙悟浄。
「沙悟浄・・・ウルサイ」
「女の尻追っかけてる変態に言われたくないわね」
雑誌(この時代あるんか??)を広げる三蔵。
その雑誌を奪いテーブルに叩き付けた。
「喧嘩売ってんの??買ってやるぜ」
「まぁまぁ、落ち着きなって」
今にも飛びつきそうな勢いの八戒を沙悟浄が宥める。
「うわぁぁぁぁぁ!!!化け物だぁぁ!!」
「助けてぇぇ」
外から大声や悲鳴がした。
「……」
「ほら、黒豚。ストレス解消にでも行ってきなさい」
怒りを宥めるように、八戒はしぶしぶ外へ出て行った。
八戒を見送った沙悟浄は独り言のように呟いた。
「…もう少し法師らしい発言や行動をしようね」
「これが私。他人の意見に左右される気は無いわ」
苦笑いをする沙悟浄はふと異変に気づいた。
*
「おらぁぁ!!どうした!」
戦斧を振り回し、敵を豪快になぎ倒していく八戒。
華奢な女の体に似合わず、大きさも重量感もある戦斧を軽々と扱う。
「はっかいぃ〜。あんまりいじめると、てきサンしんじゃうよぅ」
緊迫した空気を打ち壊すほど、ゆったりのんびりした独特の口調。
そこには小柄な小さな男の子がいた。
少年にはサルの耳と尾が付いており、見てすぐに猿と人間の亜人種だと分かった。
「悟空…宿で寝てたんじゃなかったのか?」
悟空は眠そうに目を擦った。
『ぐぅ…。なぜだ…お前等は亜人種だろう。コチラ側の味方の筈…』
敵の合成獣(キメラ)が傷を手を当て、八戒達を睨み付ける。
「…亜人種だから??敵とか味方とかそんなん関係ないね」
自信満々に答える。
「んとねぇ〜。さんぞーはおこるとこわいんだよぅ」
首を傾げて答える悟空。
その背後には他の合成獣(キメラ)が…。
合成獣(キメラ)は悟空の頭に思い切り噛み付いた。
『はははは!!!油断したな』
高らかに笑う合成獣(キメラ)達。
血の気が引く八戒。
「お、俺は関係ないからな!!!」
『はははは……は??』
合成獣(キメラ)達が想像していた八戒の反応と違ったため、間抜けな声を上げた。
『ぐおぁぁ』
悟空に噛み付いた合成獣(キメラ)が叫び声をあげた。
合成獣(キメラ)は歯がボロボロに折れていた。
「いっしゅん、まっくらになったぁ」
悟空の頭には傷一つ無い。
外見は尾と耳以外は普通の子どもとそう変わらない。
だが、体は岩で堅く守られていたのだ。
「私の悟空に何してるの??」
合成獣(キメラ)達は一斉に声の方を見た。
三蔵のあまりにも冷たく低い声。
声一つで殺気を恐いほどを感じ取ってしまうほどだ。
三蔵は悟空を抱き上げると、敵を見張りこう言った。
「……咲き誇れ、狂い散れ『紫焔桜(しえんざくら)』!!」
*
三蔵のお陰で更に傷の増えた八戒は自分で傷口の手当をしていた。
「あんな場所で大技使うとか殺す気かよ」
「悟空を守れ程使えない奴なら別に死ねばいいのに」
「まぁまぁ、三蔵(ウチのボス)は手厳しいんだから…」
「さんぞー、きびしー?」
「こら沙悟浄。悟空に変な事吹き込むな」
こうして三蔵一行の賑やかで騒がしい一日がまた過ぎていくのでした。
〔完〕 あとがき→