小説
□ラブ☆日和
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【ときめく人】
ガタタン、ガタタン、ガタン…。
停車駅が近くなり徐々に電車のスピードが落ちていく。
「あぁ…、こんな所で出会えるなんて…夢みたい…」
千庭知佳は混雑した電車の中、うっとりとした表情で一人の男子学生を見つめていた。
黒色の短髪。
顔の割に胸は幅広く、程よい筋肉で力強い印象を与えた。
隣にいる周防羽美は、心配そうに知佳とその男子生徒を交互に見つめていた。
駅に停まり、扉が開くと知佳は人の流れで押し流されてしまいそうになった。
「ぁ…」
扉の向こうに黒髪の男子生徒の姿があった。
「ぁ、知佳ちゃん、駄目だよぅ」
羽美が知佳の腕の裾を掴んだが、1秒知佳の方が動き出したのが早く、するりと抜けた。
そして知佳は20cmもの身長差のある男の背中に飛びついた。
「ラブ〜〜〜〜〜〜」
「なっ!!!?」
いきなり抱きつかれた男子生徒はバランスを崩し、そのまま突っ伏すようにこけた。
「な、何なんだ!!!」
コンクリートの地面で思い切りぶつけ赤くなった鼻を手で隠し、知佳を睨んだ。
知佳は抱きついたまま目を輝かせ、顔を綻ばせた。
「ラ・ブ♪」
首を傾げ、ニッコリ笑う。
「っ!!! な、ななな」
男子生徒の頬に熱が帯びる。
その時、誰かが知佳の襟元を掴み、思い切り上に持ち上げた。
「ぐぇ…」
首が絞まって苦しかった知佳が立ち上がると、隣には友人の宝多泉がいた。
泉は、ご迷惑おかけしました…と男子生徒にニッコリ微笑えんで言うと、知佳の襟を掴んだまま電車に引き連れていった。
「……一体何だったんだ…」
男子生徒は立ち上がれないまま、2人が乗った電車をただただ眺めた。