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□10年流星
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「さっみいぃっ!」


バイクから降りると いかにも寒そうに山本が声をあげた。

息を吐くと、ふわりと白い小さな雲ができて 冷たい空気に溶けていく。
鼻先は感覚があまりなくって、指先はかじかんでいる。
まだ秋だというのに まるで冬のようだ。

顎あたりまで隠すように巻いた赤いチェックのマフラーに鼻あたりまでを埋めた。
吐息でしっとりとして、冷たくなったり暖かくなったりしていた。

「なぁヒバリ、あとどれくらい?」

寒そうにジャンバーのポケットに手を突っ込み、足踏みをしながら聞いてきた。
腕にある、ライト付きのデジタル時計を見た。

「あと7分」
「うあぁ、長ぇ!」

何の変化もない秋の夜空を見上げながら 寒さを吹き飛ばすかのように山本が叫ぶ。

「それぐらい待ちなよ」
「だって寒ぃだろー」

それはそうだけど、という本音をギリギリで留まらせる。

未だ寒そうに夜空を見上げ、口から白い水蒸気を作り出している山本につられて 僕まで夜空を見つめていた。

「なぁ、ヒバリ」
「なに」
「こうしてるとさ、10年前を思い出すな」
「あぁ...」

そうだ。
丁度10年前くらいにもここでこうして、山本と一緒に流星群を見に来た。

「俺が新聞で見つけてさ、ヒバリをしつこく誘ってなー...」
「うん」
「んでヒバリのバイクでここまで来てさ、一緒に肉まん食ったよな」
「あれは君だけだった」
「そうだっけ?」
「そうだよ」

そういやそうだったな、と申し訳なさそうに はははっと苦笑した。

あの時と違うのは 山本が肉まんを食べていないことくらいで、他は全部同じ。
山本が新聞を見て 今夜の11時頃に見事な流星群が見れる事を知り、無理矢理僕を誘った。
バイクの運転は僕のほうが慣れているし、山本の運転は不安だから と僕のバイクでここまで来た。
そして今、こうして夜空を眺めている。

と、空を一つの白い線が横切った。

「おー...流れたな」
「うん」

それが合図だったかのように 次々と 白いすっとした線が弧を描いて、空をなぞっていく。

二人はその場に立ち尽くし、ただただ見とれていた。

今 見えている流星群は、きっと あの頃よりも星の数が少ないし、綺麗じゃないと思う。
でも 今見えている星は充分に綺麗で、綺麗すぎて僕達には勿体無い程だった。
あの光は何万年もの長い間 空気も生き物もいない宇宙を凄いスピードで飛び続け、僕達の所まで届いている。
そんな綺麗で 凄いものを見れるのは、人を傷つけ 血に塗れる僕達には勿体無さ過ぎた。


「ねぇ、山本」
「なんだ?」
「流星群、見れる日があったら早めに言ってよね」
「!....おぅ!」

これを僕達の形にしようか。
これを見れるということは、僕達が何一つ欠けることなく 一緒に居られたということ。
この綺麗で純粋な光の線は、僕達の印にしよう。



ずっと、一緒にいられるように。

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