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□普通の世界
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「獄寺くんの好きな人ってだれ?」




放課後の教室で野球バカを待っている時に 
教室の隅で女子達が きゃあきゃあと恋の話しをしているのを忌々しく見ていると
十代目が突然そんなことをおっしゃった。

「俺ですか?もちろん十代目のことはお慕いしておりますよ」
「そうじゃないよ、獄寺くん」

可笑しそうに くすくすと十代目が笑うと、
少しトーンを落として言葉を発した。

「今恋してる?ってはなし」
「!なっ...」
「居るよね?好きな人」
「え、あ、その...っ」
「見てれば分かるもん。で、誰が好きなの?」
「あー...それは、その...」

ははは、と乾いた笑い。垂れる汗。

「居ますけど、曖昧で...」
「へぇ?」



その時ふいに教室の扉が開いた。

「よぉ、待たせちまって悪ィな!」
「遅ぇよ」

グランドの土に少し汚れた顔に何故かどきりとしつつも
忌々しげな声色で文句を言う。

「だから悪かったって。な?」
「うるせぇ。さっさと帰るぞ」
「おぅ」

この、何気ないやりとりが 何時の間にか暖かい熱を持つものになっていて
とても心地よく思える。
そのせいか、この間「最近やわらかくなったよね」と十代目に言われた。

確かに、昔の俺では有り得ないことも自分からするようになったし 
絶対に寄せ付けまいとしていたクラス男どもの話しを聞いてやる事もたまにはあるようにもなった。
なんでだろう、と考えたことはない。なんとなく、自分で分かっている気がする。
それを思うたびに山本が目に付くのは気のせいだろうか。

また溜め息が漏れた。

「どうした、獄寺?」
「疲れてるの?」
「や、大丈夫です 気にしないで下さい...」

最近自然に出るようになった溜め息。
溜め息をつくのは、山本のことを思い出している時が多いかもしれない。
...気のせいだと信じたい。



俺は十代目さえこの世に居るならそれでいい。
それだけで、俺は俺で居られるのだし 存在する意味が生まれる。
そうだよな、きっとそうだ。
山本なんぞは関係ない。なぁ....そうなんだろ。



ある日山本が学校を休んだ。
親戚の葬式だとかなんだとかで。

「やまも...」
「獄寺くん、山本は今日休みだってば」
「あ。あぁ...そうでしたね...」

あれ、なんで俺 今ちょっとがっかりしてんだ?
しかもなんで山本の名前呼びかけてんだよ...

「やっぱり、山本居ないとつまんないね」

まったくもって、同意見。
こんな事を思うのは忌々しいが 俺はあいつが居ないと調子狂う仕組みらしい。

「別に居なくてもどうって事ないですよ。支障はありません」

あぁ、なのに何で思ってもみない事を言うんだろう。
少し素直になれたというのに。性格とは恨むべきものなのだ。


だんだんと俺の見る世界の中に、山本という存在がいつも居るという事が 認識できるようになってきた。
俺の、守るべき「平和」な世界には 十代目が居て、学校があって、山本が居るようになった。
普通に生活して、一緒に居る あの暖かい時間が愛しいものとなってきた。
あいつに対して 叩きなれた憎まれ口も必要不可欠。あぁ、そこには「昼休み」のセットで欲しい。

憎らしくも愛しい。微妙な存在とポジション。
そんなお前が俺は好き。

その愛情を示せるようになるのは、何時になることか...

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