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□硝子の欠片
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みーどーりーたなーびくーなーみーもーりーのー....



屋上に 歪な鳥の唄が流れる。
そんな中、ふわりと欠伸を漏らし目をうっすらと開いては 太陽の眩しさに目を閉じた。
今日も変わらない、澄みきった青空。僕には、眩しすぎる。







この街は 毎日毎日変わらない。
同じように皆が皆、働いて勉強して遊んで恋をして。
同じようなことを言って、同じようなことでケンカして 同じようなことで仲直りする。
ほんとに、機械仕掛けみたいに単純で つまらない世界。
所詮、低脳な草食動物達の群れだ。どうせ愚かな事しか考えて生きていけないんだろう、と諦めている。

あぁ、でも少し。面白そうな奴が居る。

並盛中2−A山本武。
あいつは最近、僕のところに顔を出すようになった。追い払っているけれど。
何考えてるんだか解んないけど、殴ってもへらへらしている変な奴。
そのうち、殴る気も 怒る気も失せた。

僕にとっては新鮮で、この世界の流れに逆らって動いている生き物が他にも居るという喜びで
僕はとても不思議な気分になる事が多々あった。

山本だけは 毎日違う事を話し、毎日違うことをし、毎日自由な笑顔で
毎日違う理由でケンカを避け 毎日違う言い訳で、誰かと誰かを仲直りさせていた。

僕と同じようで違う生き物。山本武。



ねぇ、良いことを思いついたんだ。



この世界には、山本と僕しか居ない。
他の生き物は皆、命を持たない人形。
そう思いこめば、世界は軽くなるよ。

同じ事を繰り返し、飽きずに同族を傷つける草食動物どもを
記憶の、頭の隅に追いやる。
そうしたら、どうだろう。この世界の色は 僕に馴染んでくれた。
これで、憂鬱な日々から逃れられると思うと 心が躍るようだ。


その時僕は なにかに気付いてしまった。


この世界で動き回る『人形』どもが
何故あんなにもつまらない『モノ』に成り下がったのか。
何故僕と君だけ、世界の流れに逆らっているのか。
あぁ、なんとなく 僕は分かってしまった。


僕は 山本武のことが....


世界が、崩れ始めた。
地面は割れ、崩れて 『人形』達は落ちていく。どこかへ。
あの、澄みきった単純な青空でさえも 硝子のように粉々に砕けては落ちていく。
静かに照りつけていた大きな太陽の欠片が 僕の手の上に乗って、砂となって消えた。
『並森』を映した硝子が砕け落ちた後に残ったのは、僕と山本二人だけ。
あたりは真っ暗で きらきらと輝く沢山の星が、遠くに見えた。

「...ヒバリ、とうとう言っちまったんだな」
「なにを」
「でも、嬉しかったぜ」
「だから、なに」
「俺もヒバリのこと」

「好き、なのな」


あぁ、そうだ。僕は
山本武のことが、好きになっていた。
いつからだろう。ずっと前から。
20年も、何10年も前からのような気がする。

「山本...」
「ヒバリ。俺は もうここには居られねぇの」
「...?」

「俺は3年前に死んだだろ?」

「...っ!!」
「よく思い出してみろよ。今のお前は、中学生の雲雀恭弥じゃなくって
 28になった雲雀恭弥だろ」
「!...」

僕は...あぁ、思い出した。
僕は、愛しい君の最期の瞬間に唯一居合わせた人だった。

「これは、俺が ヒバリへの感謝の気持ちをこめて、最後のプレゼント。
 ヒバリが一番思い入れが強かったあの時を もう一度、あげたのな」

そう言って切なげに微笑むと
ふわりと体は大きくなり、ませた面持ちになった。
あぁ、24歳の 死ぬ直前のあの子だ。

「ごめんな、約束守れなくて。正月一緒に居ようって言ったのに。
 影で泣いてんの、俺知ってるぜ。寂しくさせて、悲しくさせて ごめんな?
 ほんとに、ほんとに、大好きだから。愛してるぜ、ヒバリ。
 だから...最後に、笑ってくれよ。...な?」

一番寂しくて、悲しいのは自分だろ。
影で泣いてるのだって、自分もでしょ。
ほんと、可愛くない奴だね...素直じゃなくて。
あぁ、もう そんなこと言って..泣かせてくれるじゃないか!

「やまもと」
「ん...?」


「愛してる」
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