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□向日葵
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じわじわと、染みる 熱。

空は、いかにも夏らしい色に澄み渡り 風は鬱陶しく生暖かい。
遠くの山で、みんみんと忙しく蝉たちが鳴き 肌にはりつくような暑さを倍増させる。
暖かな陽だまりを作っている、年季が入って黒々とした縁側と ひんやりとした空気が流れる、広い畳の間では
温度差がかなり違う事に、毎年驚かされる。
畳の、乾いた草の匂いが身体に染みて 心地よい安堵をおぼえる。
寝転べば畳の温度と感触が身体や肌に馴染んで、とろり、と心地よく瞼がとろける。


そんな、全てのものを遮って 俺の中は熱とショートしたような白でいっぱいだった。


「ぁ、んぁ...ゃ、そこ...!」

やめて、という叫びは 掠れてかき消されてしまった。

後ろから緩く突き上げられるたびに、一瞬呼吸が停止して まるでしゃっくりをしているような呼吸になる。
ぽっかりと開けられた唇からは、ただただ反射的に発せられる甘い言葉や声が ぽろぽろと零れ落ちるだけ。
されるがままに、されたがままに 身体は熱を持ち、反応し 声となって、外界へ伝えられる。
その度に頭の中がショートして、白くなっては何も聞こえなくなる。見えなくなる。
わかるのは、愛しい人の存在と、この行為によっておぼえる羞恥。そして身体中を巡る、ぞくぞくとした刺激だけ。
あぁ、どうか ずっと、このままで。

「...君、首 弱かったよね」
「...っ」
「あと耳も」

苛めてあげようか、と焦らすような曖昧な問いかけに 全身が期待に震えた。
その、ピンポイントな弱点に与えられる刺激が いかなるものか。どれほどの威力があるかは、嫌というほど身をもって知っている。
それは甘美でじれったく、戯れに心地よい 犬にとっての焼けた肉に等しいものだった。

期待した眼差しで相手を振り返り見つめれば、四つん這いになった俺を見下ろし 彼はひどく満足げに笑んだ。
いいよ、とだけ言って 行為を再開し、突き上げる動作の流れで俺の首筋や耳朶にくちづけては 赤く丸い痕を残していく。
所有印というやつだ。

「ひゃ、あ ひば、り...っ、もっと、ぉ」
「...ふ、淫乱」

あぁ、なんとでも言ってくれ。
俺はあんたの犬なのな。

ご主人様は、お望み通り キスもたくさんくれたし、良い所をじっくりと愛撫してくれて 
おまけに腰の動きも前よりか 激しくなった。
上手に、かわいく強請れば 優しいご主人様は、なんでも叶えてくれる。
俺の愛しいご主人様。俺のすること成すことなんかで満足してくれるなら、俺はなんでもやってのけるのな。
なんでも...。

「ぁ、はぁ、っ...あ、ん」
「...っ、やまもと」

名前を呼ばれて、頷いた。
終演の、合図。

「...んっ」
「ひゃ、ぁ ...―――っ!!」

一段と甲高い嬌声は、途中でかすれてしまった。
ぶる、っと震えて 今まで触れられていなかったソレから、白濁の液が吐き出された。
後ろ、俺を組み敷いているその人物も同様に 白く熱いその液体を、俺の体内に吐き出していた。

「は、ぁ...あ、あつ...、あつ、い...ぁん」

胸と腹を必死に上下させて呼吸をするたび、結合部から 彼の吐き出したものが、たらたらと流れ出る。
ずるりと、穿たれていたものを抜き取られ その僅かな刺激に腰が震えた。
新鮮な酸素を身体中に送り込んで、生暖かい外気のせいで熱を持った肌も冷まされた。
意識もだんだんとはっきりとしてきて、それと同時に ひどく身体が疲労していることも明白に理解できてくる。
俺はそれにいつも、この上ない生きている実感を感じて 安堵する。

あぁ、幸せ。











冷たい畳に、寝転ぶ。

ふたりとも、暫くの睡眠から目を覚ましてはいたものの 起きあがろうとはしなかった。

この時始めて、行為のずっと前から 縁側と畳の間を仕切る障子が、全開になっていたのに気付く。
見ると、庭の大きく伸びた向日葵がこちらを見るように咲いていて 少し恥ずかしくなった。
所詮向日葵、されど向日葵。
やること成すこと全てお天道様が見ているんだと言うけれど、どうやら俺達は小さなお天道様に見られてたみたいだ。
なんとも面白おかしく、それでいて恥ずかしいことだろう。
なんだか、凄く 凄く、幸せだ。こんな、夏の昼。

今でも何処かで戦争やら争いやらは起こりまくって 鎮まることを知らないけど、でも俺たちは あぁなんて。
呑気なんだろう、と。
思わず声をあげて笑う。
するとヒバリがこちらを見るものだから、俺も見つめ返して ぎゅ、っと抱き締めた。
しっとりとした汗と、嗅ぎなれた ヒバリの匂いが 身体に染みる。

「...なぁ、ヒバリ?」

抱き締めたまま、俺はやんわりと呟くと 彼は何も言わず軽く抱き締め返してくれた。

「今、お前とか 獄寺とか、ツナたちが幸せかは 俺には分かんねぇけど。少なくとも」

俺は 凄く幸せだ、と。それだけ。
そう、言うと 彼はただ、うん と言ってそれきりだった。


幸せな、夏の 昼下がり。

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