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□チェリー
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その日俺は 部屋の片付けをしていた。
決して広いとは言えないこのアパートの一室を、俺は部屋と言っていた。

粗方片付いた時、辞書やら図鑑やら参考書やらがきっちり並んでいる本棚から 1冊のノートが落ちて来た。
それは日本に来た時、何となく書き始めた日記だった。
部屋への来訪者は多くはないが、居ないわけでもないので この日記はずっと隠してある。
このノートは365ページ。今ではこのノートも2冊目になって ここに来て2年も経つのだと、改めて思った。
中には、恋をした事とか 可愛いアイツと喧嘩して落ち込んだ事とかが、80行の大学ノートにぎっしりと書かれている。
でもそれは、今では少し照れくさい思い出。他人からすれば 痴話ゲンカのようで、可愛らしく思えたに違いない。

と、その時。
後ろでドアノブが回る音がした。

「よーっす、ごくでら。手伝いに来たぜ」

愛想の良い笑顔で部屋に入って来たのは、俺が愛すべき恋人。

山本 武

付き合い始めたのは、始めて会って半年経った 夕方の放課後。
その日は部活がなく、しかし居残り可という 年に数回程しかない特別な日だった。
呼び出したのは俺で、告白したのは山本だった。俺が告白しようとしたのに 思わず山本のほうが先に告っちまった。
まぁいいか、とすぐに諦めた。だって、思いは重なり合ったのだから それ以上に望むものはない。
この時から、俺達は甘い、酸っぱい関係になった。

ある日、俺達は些細な事でケンカした。
俺があまりにも冷たいと、山本から苦情がきた。
「もう少し優しくしてくれよなー」と。
悪いのは、あっちなのに。山本が誰にでも愛情を振りまくから ガラにもなく嫉妬した。ただ、それだけ。
嫉妬した、それだけの事を言えずに 俺はあいつを怒らせた。あぁあ、と溜め息が出た。

その時山本は 夕方 家に帰って、綱吉にメールした。「どうしよう」と。
綱吉は獄寺が陰ながら嫉妬している事を 山本に言うと、「うん、ありがとな」と切なげにいった。
次の日 山本と獄寺は仲直りした。
腫れてこそいなかったものの、うっすらと山本の頬に涙のあとが見えていたのを覚えている。



山本が俺の横に座りこむ。

「来るの遅ぇよ。もう片付いたっつの」
「そうだったか。悪ィな、店の手伝いが多くって」
「...別に気にしてねぇよ」
「ならいいや」

機嫌良さそうに答えて、山本が俺にくっつく。
そんな可愛いお前には お礼代わりのキスを。
山本は嬉しそうに喉の奥でくすくすと笑って、お返しキスを頬にくれた。

こうやって、二人の想いは通じ合っていると実感して ずっと一緒に居ようと思う。
ずっとずっと繋がっていて、ずっと愛し合っていたい。
永遠に、とは言えないかもしれない。でも、ずっとずっと と願うだけでも、俺達は少しだけ長く繋がっていられる気がした。
少しでも相手が三日月のように欠けていたら 足りない、足りない!と相手の欠けた部分の欠片を探して 何処までも何処までも走っていく。

「なぁ、もう1回」

好きだと言って、キスして。
俺を、愛して。





もう1回、は何時まで続くんだろう。



+END+

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