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□恋雨
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ボーっと瞼が開く。夜明けの日差しがカーテンをとおして目を覚まさせる。
ぼんやりと明るくなっているカーテンを、寝ぼけた頭と目で見た。ふわふわする。
と、何故か頭を一人の男が通りぬけて 思い出したようにケータイを手に取る。
チカチカと紫のランプが点滅していた。
ぱくりとケータイを開き、できるかぎりのスピードでメールを読み、なるべく早く返信をした。
そうでないと、あいつの機嫌が今日1日中斜めになる。

俺は昨日、思い立って髪をすいた。
物事に敏感なヒバリはきっと気付いて、「それ、どうしたの」って聞くだろう。
それが狙い。
少しでも多く ヒバリと話すキッカケがほしくて 髪をすいた。単純なこと。

制服はクリーニングに出して綺麗だし、ユニフォームも洗ったばかりのやつ。
髪はすいたし、消しゴムもボロボロになってしまったので新しいの。

今日の俺って、なんだかピカピカだな!

自信が出たのはいいけど、俺がヒバリの前では本領発揮できねぇのは変わらなくって それで随分悩まされた。
獄寺に相談したら ちょっと吃驚したようで、「お前それ、好きなんじゃねぇのか」って言われた。
凄く恥ずかしかった。でも嬉しくも思えた。何故だかは分からない。
でも、ヒバリを思い出す度に熱くなって溶けちゃうんじゃないかと思っていたアレは 好きだからだと分かると嬉しく思えた。

そうな、俺はヒバリが好きなのな。



放課後は見事なまでに土砂降りだった。
朝の天気予報では1日快晴と言っていたはず。
ハズレちまったんだな、と溜め息をついた。

最近 ヒバリのほうから声がかかって、下校は途中まで一緒。
珍しいな、と思いつつ 楽しいのでまぁいっか、と思っていた。

今日は雨。ヒバリが律儀に傘を差して帰る奴だとは思わないので カバンには折り畳み傘が二個。
でも片方は差したくなかった。

昇降口の前でカバンの中を見つめ、固まってしまった俺を見て 「一つしかないならいいよ」
と俺の傘に入ってくれた。

声が裏返りそうでピンチだった。校庭10周した時よりも心臓がドクドク耳に響いていた。

これが、好きってことか。
好きって、苦しいことなのか。
ヒバリは俺のこと、どう思ってんだ?
好きだと、いい。俺を見て、俺と同じように苦しくなっていればいい。
そしたら、どうしようもなく嬉しいのに。

そんな事をぐるぐる考えていたら 俺が思いがけない行動に出た。

くるりとヒバリのほうを向いて、ヒバリの胸元のシャツを掴むと 顔が火照って頭が真っ白になった。

「あ...あの、...あの。さ」

ヒバリは俺の異変に気付いたのか、なにもせずに黙って待っていてくれた。

「えっと、その...俺、ひばりのことが好きみたいなのな...できれば、でいいんだけど....付き合ってくれねぇ...?」

最高に顔が熱くなって、泣いてしまうんじゃないかと思った。本当に、溶けるんじゃないかと思った。

火照った顔で泣くのを堪えようと俯いていると、ヒバリが顔を覗きこんできた。
と、思ったらにやりと笑って 唇に柔らかいものが触れた。

ボっと煙が出たかと思った。溶けた。



「なにやってるの、早く行くよ」

声を掛けられて我に返った
キスをされた。それが理解できるのに、どれくらいかかっただろう。
もうどうでもよくなった。


好きってことが とても良いものだと分かったから、他はもうどうでもいいと思えた。

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