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□気付いて下さい
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俺には、好きな人がいる。
その人は とても綺麗で、刀の切っ先のように鋭くて、不器用で。
でも本当はとても優しくて、柔らかくて暖かい笑いかたをする人。
その人を見ると、俺は なんでか涙を流す。
ずっとずっと昔の大火事で、両親を亡くした時とは違う もっと切なくて、でも嬉しい涙。
なんだろう、なんでだろう。何百年も彷徨い続けている俺にも分からない。
でも俺は 遠くから見ることしかできない。
いや、近くに行ってもいいのだけれど 近づいたら壊れてしまいそうで。
触れたら消えてしまいそうで 怖い。
それに、触れることはできない。俺は人であって人でないから、触れることも話すこともできない。
あぁ、生きる時代を間違えたんだな 俺は。
気付いて、俺を見て。
叶う筈の無い願いを毎日毎日 あの人を見て思う。
ずっとずっと、ずーっと一人で 誰にも見られずに、気付かれずに生きてきた俺は それをそんなに気にした事はなかった。
それが、こんなにも気付いてほしいと切に思うことになるなんて。
俺、もうちっと潔くなれたらよかったのにな。
また、涙が零れた。