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□雨に濡れた花
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雨が止んだ。

だからといって、なにかあるわけでもないけれどふと気付いたものだから、独り言のように口にした。

灰色で分厚そうな雨雲どもは散り散りに千切れて、光の筋があたりを照らす。
校門わきにある花壇の花は雨に濡れて 花弁やら葉やらに雨水の粒を抱えているように見える。
雲の間から差しこんだ光が 丁度その花壇を照らした。
きらきらと雨粒が光を映して輝くから、その眩しさが目にしみる。

窓辺に立って外を見ていたら 後ろでドアの開く音がした。

「ひばり、雨止んだな」
「...あぁ」

これじゃぁ午後部活中止だな、とへらへら笑う訪問者。

「随分と悠長だね。もうすぐ中体連だろ」
「雨降っちまったんだから仕方ねぇだろ?
 まぁ、本当は雨降っててもやりてぇけどな」
「そんなことしたら 1週間部活禁止だから」
「分かってるって。グランドぐちゃぐちゃになるもんな。」

そう言って、山本はいつもの笑顔を見せたあと 俯いては苦笑した。

「親戚の叔父さんの葬式、行ってきた。結構キツいな」

火葬場、冷たかった。と明るく笑って 溜め息を吐いた。

土日に親戚の叔父の葬式に行ってきたらしい。
初めての葬式でもないらしくて、慣れているような事を言っていた。
幼い頃に随分と可愛がってくれた人らしく、思い入れも強かったらしい。

「叔父さんな、小さい頃俺を女の子と勘違いしてたらしくってさ 赤い牡丹の着物くれたんだぜ?
それでも俺、まだ小さかったから 物貰っただけでも嬉しくってさ、大喜びしてたっけな。
それを着て笑ってる写真もあって、叔父さんも写ってんだけど 若くてさ...」

ソファに座って俯いて、切なげな苦笑を浮かべながら山本を ただただ窓辺に立って眺めている。
泣けばいいのに。

君はませている。ませすぎていて、中学生らしくないといつも思うよ。
責めて僕の前だけででも、子供らしくしたら?
泣いても死ぬわけでもないのに。

窓辺を離れて山本の座るソファの開いてるスペースに落ち着く。
どうやら山本の話しが一段落したらしい。

「山本」
「ん?」
「泣いてみなよ」
「...なんで?」
「人はいつか死ぬでしょ。生きて動くものならなんでも。笑って怒って泣くの。
 君は笑えるし、怒れるし、泣けるんだよ」

だから泣いてみせてよ。

「君は中学生で、まだ子供で まだ成長しながらも生きてる。
 泣いてもいいし、泣けるんだから 泣いたらどうなの。
 君はまだ、死んでない」

さぁ泣いて。涙で濡れたその顔を 僕に見せてよ。
君が生きていられる 今のうちに。

「ヒバリ...」






涙で潤んだ目をした君が綺麗な花のように笑った。

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