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□Una stella cadente
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「今日は...夜空が綺麗ですね...」


悠長に、否 悠長に見せようと、そんなことを言ってみる。
あたりには誰も居ない。僕、だけ。


今日は 悲しい日だった。
最愛の人の死。自分がしでかした過ち故に、最期の時に居合わせられなかった。
あぁ、貴方は強いのでしょう。なら、何故 そんなにも早く逝ってしまったのですか。

初代ボンゴレ守護者が7人揃ったと安心していた矢先。
大きな抗争で 雨の守護者、朝利雨月が戦死した。
敵の放った流れ弾に胸を撃たれたそうだ。

その雨月が 最後に僕に、と言葉を残した。

「お前と居れて良かった、って...言ってやってくれ...」

そう、幸せそうに言って微笑んだまま瞼を閉じ 二度と開かなかったという。

(こんな裏切り者の僕でも、愛してくれて こちらこそ有難う)

夜空に浮かぶオリオン座を見つめ そう思う。



雨月は初めて会った時から 自分とは何か違う空気を発している生き物だと思っていた。
それは見なれない目の色だとか、異様な格好だとか 聞きなれない異国の言葉だとか 馴染みの無い習慣や礼儀、文化だったりが発していたのかもれない。
しかし、それとは違う あの雨月という存在自体が発する暖かい空気。心地よい波動のようなもの。
それが全て純粋に透き通っていて、汚れた僕や この世界とはかけ離れた別世界のもののように思えた。
言うなら、「高嶺の花」。手を伸ばし摘もうとも摘めぬ、断崖絶壁の頂上に咲く一輪の青い美しい花。
その心地よい雨月の存在に 何時の間にか心惹かれていた。

それに気付いた頃だ。僕が裏切りを図ったのは。

その頃 ボスであるジョットを中心に、マフィア界でも一大勢力となりつつあったボンゴレに
僕はとんでもない裏切りを図ったのだ。
それさえ無ければ 僕だって雨月を守れたに違いない。

あぁこの失態を謝りたいけれど 君はもうここには居ない。


「いいんです。肉体を離れた魂は...巡るのですから」

また、会えますよね。


小高い丘の上まで来た。
ここは星がよく見える場所だという。
僕がここに来るのは ただ単にここが好きだからというだけ。そうだ、雨月もここが好きだった。
夜空を眺めると 冬の大三角形が見え、さっきまでのオリオン座は少しだけ場所がずれていた。
白い息を吐きながら上を見上げ、夜空の光に視線を向けていると ふと雨月の顔が浮かんだ。
にっこりと、柔らかく優しく微笑んでいる。暖かい、笑顔で。

あぁ、本当に雨のような男でした、と今更思う。
優しく優しく人を包み込み、生き物に命を吹き込む 命の雨。優しい雨。

そんなことを思うと 瞼が熱くなり、目の奥から涙が溢れ出てきた。
拭っても拭っても 絶えず流れ続く暖かい涙。
僕は こういうのが生きているということか、と自然と笑みを作っていた。

「貴方の笑顔は 雨というより、暖かい太陽のようでしたね...」

雨月の笑顔は優しくて 花がほっこりと咲くような、自然な表情だった。
いつも にこにこ笑っていた。
その笑顔が僕は大好きで、視線をそらしたくないと思えるくらいだった。

でもあの笑顔も 僕の記憶のなかでしか見れなくなってしまいました...

その記憶さえも月日が経つうちに色褪せて、薄れていく。
あぁでも僕は 君を絶対に忘れたりはしない。約束しよう。

『知ってるか? 星や月に祈ると、願いごとが叶うらしい』

子供の頃に聞いたことがあった、と流星を眺めながら言っていた。
僕は幼くして孤児となり、親の顔も見ずに育ってきたものだから そんなことは初耳だった。
今思えばそんなことは 子供が目を輝かせるようなおとぎ話の世界の話しも同然だが、彼が言うと本当に叶うように思えた。

もう一度、貴方に会いたいです。もう一度あの笑顔を僕に見せてください。

そう冬の夜空に願う。
叶うはずの無い願いを、切実に 強く強く想った。

と、その時。
きらりと流れ星が一つ。果てのない黒の夜空に弧を描いて 目の前を通り過ぎていった。
まるで雨月が応えてくれたかのように。

『スペード、泣いても良いことなんて無いぞ。笑ってたほうが絶対いいって』

な、と明るく笑ってみせる雨月が居た。ような、気がした。
俺は大丈夫だから、責めてお前は笑っていて。と。

「...えぇ、そのつもりですよ...」

思わず呟く。
そうか、ならよかった。と柔らかい、安堵の笑みを浮かべ 幻の雨月が言う。
そして、暖かい微笑を浮かべたまま 夜空の黒に消えていってしまった。





また一つ、涙がこぼれた。                                                                                                                                                            

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