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□茜のそのアト
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夕日のひかり

「ひば、...っ?!」

茜の陽射しが

「ひばり...!」

眩しかった。









少しすいた髪を、少しだけ涼しくなった風が通り抜けた。

夏休みは終わって、つい一昨日くらいには終業式も済んでいた。
それでも、まだ暑くて これが残暑というのだろうか、真夏よりもずるずると潔くない暑さで 余計タチが悪い。
しかしでも風はまだマシになったほうで、そんな風に感謝する。

気が付いたら、Yシャツが しっとりと汗ばんだ肌に張り付いていた。

俺は、毎度ながら ぼうっと窓の外を眺めていて、教卓からの声は俺の耳にはまったく届いていない程で
隣の席のやつが肩を叩いて知らせてくれないと気が付かない。
夏休み中、ずっとこんな調子で 怒られる事なんてしばしばで、自分でも どうしたんだろう?と首を傾げるほどだ。
それもこれも、みんな あの日のせいだと、自分が一番知っているのだけど。



夏休みに入って 暫く経ったある日のこと。

俺はその日も部活があって、いつもどおり校庭で練習を済ませた。
夕方、ツナん家でお泊り会をする予定だったから 獄寺が迎えに来てくれて、俺はユニフォームから制服への着替えもそこそこに エナメルとお泊り用バックを持って獄寺のもとへと走った。
遅ぇよ、と文句を言われていつもどおり笑ってごまかして 俺たちはツナの家へと歩き出していた。

「最近さぁ、ヒバリがよく野球部の練習見てんのな」
「うわ、なにそれ お前なにしたんだよ」
「俺はなにもしてねぇって! きっと、あいつも野球が好きなんだな」
「はぁ? なんでそういうことになるんだよ、あいつに限ってソレはねぇだろ」
「いや、そうでもねぇって だって、そりゃもう楽しそうに眺めてんだぜ?」
「げー、気持ち悪ぃ」

そんな、他愛のない話をのろのろと歩きながら。

すると、ふいに後ろから走ってくる音がして その音が一番近づいたと思ったら肩を掴まれて振り向かせられた。
目の前に立っていたのは、なんと 噂のヒバリだった。
俺は驚く暇もなくネクタイを掴まれて引き寄せられた。

あ、ヒバリの 匂い。

気付くと、柔らかく唇に口付けられて ヒバリと至近距離で目が合った。

「ひば、...っ?!」

なんで、と聞く間もなく ヒバリは背を向けて、夕日の光のなかに走っていってしまった。

「ひばり...!」

慌てて声をかけるも、既に届くはずもないほどに遠ざかっていて 後には静寂だけが残った。
急に頬が熱くなって 思わず軽く唇を噛んで、濡らした。

涙の、しょっぱいような 悲しい味がした。






そんなことがあってから、俺のなかはヒバリのことだらけで
あの日の感触を記憶の中で繰り返しては 熱くなって、どきりとしている。
ため息の数も多くなって、何をする気にもなれない日が続く。


なんでか、どきどきする。

「...そういうのを、恋っていうんだよぉ?」
「...恋?」

ぽつりと言った独り言を聞いてしまったクラスの女子が、くすくすとはにかみ混じりに笑って言った。

あぁ、恋...か...

俺はそれにやけに納得して、ちょっぴりにやけた。
そうかそうか、とひとりで頷いて なんだか嬉しくなった。
今思えば、ヒバリがしたあのキスが 俺のファーストキスだったな、なんて 今頃思い出して少しだけ照れて。
俺は、ファーストキスの相手に 恋をしたんだ...










俺は ヒバリに、恋をした。

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