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□あなた天気
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『完全下校時刻になりました。車に気をつけて帰りましょう。今日の放送は3年A組...』

6時半の、放送がかかる。
しかしまだあたりは明るい。
日が長くなったからだ。
部活が終わり、せわしく校門から出て行く生徒をぼんやりと見送って 僕はまだ、待っている。

なんとなく、湿気っぽい風がふいた。





彼が校門から出てきたのは、それから5分か10分ほど経ったときのことだった。
校門のかげで待っていた僕を見つけて、驚いたような声をあげたのに なんだか少し嬉しかった。

「こんなに待ってなくてもよかったのに」
「今日一緒に帰るって言ったでしょ」
「まぁな」

ごく普通の、他愛のない話。
並んで、話しながら歩く。
もう完全下校時刻から少し経っていたので、あたりに並中生徒は見当たらなかった。

一緒に帰るときだけ通る、公園脇の細い歩道。
桜並木になっていて、上を見上げると青々とした桜の葉の間から 綺麗に澄んだ空が見える。
相槌を打ちながら 上を見上げていると、ぽつり 雫が額に当った。
と それを合図にするかのように、さらさらと細かい雨粒が 頭の上に降り注いできた。
だのに、空は青く晴れ渡っていて 不思議な感じだ。

「天気雨なのな!珍しいな」
「狐の嫁入りともいうよね」
「あぁ、なんか聞いたことある」

狐の嫁入りって いい意味なのかな、と 隣を歩く君が、楽しそうに空を見上げて ぽつりと呟く。
良い意味か なんて知らないけど、君がそんなにいい顔をするんだから きっといいものだ。
なんだか、心地いいし。
自然とふたりは手をつないで、傘も差さずにゆっくりと。
今日は 特になにもなかったけど。いつもと同じ、普通の日だったけど。
天気雨が降って 空はきれいで、なんだか清清しくて 隣には幸せそうな君が居て、手のぬくもりまで分かち合える。
一日の最後に それだけなんだけど

今日は、すごくいい日だったな と思う。

それって、すごく 幸せなこと。
この時間を、忘れることはきっと無いと 思った。

(あなた、天気に)



なぁーれ!

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