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□白と黒は交わらない
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「まぁ...とりあえず、これは交番に届けるよ。
 こんなにお金持ってても、殆ど使わないだろうしさ」
「そうだよな、んじゃぁレッツゴー!」

にこにこと楽しそうに笑う悪魔のたけしは 悪魔とは思えないほど純粋で正直な子だった。
そのたけしを忌々しげに見て 舌打ちをするヒバリ。
本当、相反している。

「あ、あ!そこダメなのな!」
「ん?あ。あぁ」

足元にはアリの行列が、せっせと食料を運んでいた。
すかさず右に居たヒバリが囁く。

「気にしなくていいよ。いつかはこのアリ達も死ぬんだしね。
 それに、こんな所に行列があれば 近いうちに車に轢かれるよ」
「うー...確かに...」
「でもだからって殺すことないだろ!
 今一生懸命生きてるんだから、なるべく生かしてやりてぇのな」
「そうだよね...」

それにわざわざ踏む理由もないし、とアリを踏まずに通りすぎた。
ヒバリがつまらなそうに空中に頬杖をついて溜め息を漏らした。




その日は交番へ行くと、そのまま帰って来た。

夜、夕飯を食べて風呂が沸くまで俺の部屋で色んなことを聞いた。

「ヒバリとは幼馴染でさ、昔っからこんな感じなんだぜ?」

可笑しそうに話す姿はとても微笑ましかった。

「あぁ、そう言えば ヒバリ、小さい頃になにか約束したよな?
 アレなんだっけ」
「う、うるさいな!それのことは もうどうでもいいでしょ...!」

今でも充分小さいんじゃ、というツッコミを抑え ヒバリの動揺の仕方がひっかかった。

「へぇ、なんか恥ずかしいような約束でもしたんだ?」
「俺はあんまし覚えてねぇけど、ヒバリのほっぺがリンゴみてぇに真っ赤だったのは覚えてるぜ」

そう、ヘラリと笑ってたけしは言った。
その横に大人しく座っていたヒバリが殺気を膨らませてユラリと立ちあがる。
手には武器が握られていた。

「わ、わ、ごめん!ごめんってヒバリ!!」

慌てて謝るたけしをよそに、ヒバリは右手に助走をつけ 一発たけしの頬にお見舞いした。

「いってぇー!もう、ごめんって言ってるだろ」
「煩い。余計なことは言うなって言ったでしょ」
「そうだけど...」

頬を抑え若干涙目のたけしの胸元をヒバリの小さい手が掴んで引いて、顔と顔を近づける
凄く凄く近くて、今にもキスをしそうだった。

「今後、こんなこと言ったらどうなるか分かってるよね...?」
「あ、あぁ、分かったから許してくれよ、な?」

そう言ってたけしは ヒバリの額にキスを落とした。ちゅ、と軽い音がした。
わあぁ!と叫んで目をそらす。

「ふん。まぁいいよ...」

言葉とは裏腹に、凄く満悦そうな笑みを浮かべるヒバリ。
あとで聞いたのだけど、アレが悪魔と天使共通の服従の証なんだって。

「ね、ねぇ君たち。ケンカもおさまった所で、お風呂沸いたし そろそろ入らない?」
「お、それもそうだな!な、ヒバリも一緒に入らねぇ?」

声を掛けられたヒバリは びくっとしただけで何も言わない。

「?...まぁいっか。うっしゃ、入りに行くぞー!」
「え?ちょっ、離してよ...っ」

こういうナチュラルに強引な所は悪魔だな、とヒバリを引きずっていくたけしを見て思った。

「いっちばん乗りー!」

ジャバーン!!

小さな水柱をたてて風呂に飛びこむたけし。
やれやれという風に 俺は腰に手を置き、苦笑した。

「お風呂の床抜けるよー?あと頭打たないようにね。
 ほら、ヒバリも入ってきなよ。冷えちゃうよ?」
「いいの!僕は入らないから」
「えー、ヒバリ入らねぇの?」

風呂から顔だけを器用に出したたけしが残念そうな声を出す。

「一緒に入ると楽しいぜ?ヒバリ入んねぇんじゃ 楽しさ半減しちまうのな」
「う、うるさいな。君は今でも充分楽しいでしょ」

曇りガラスの向こうの影が揺らぐ。

「いいだろ、な!」

湯船から飛び出してガラリと扉を開けると まだ服を着たままのヒバリの手をひく。

「う、わ!」

そのままツルリと滑り、
これも天使と悪魔の能力か ふわりと一瞬空中に浮き、勢いよく湯船に落ちてしまった。

「え、大丈夫?!!」

慌てて沈んだ二人を引き上げると 思わず心配そうな声をあげた。

「がふっ、げふっ....っふあぁ、苦しー」
「げほっ、...っ、ちょっと、いきなりやめてよね...!」
「悪ィ、悪ィ...あー、咽た」
「僕なんかおでこぶつけたんだけど」
「え、大丈夫か ヒバリ?」

ごめんな、と心配そうにヒバリの顔を覗きこむ。
すると一気にヒバリは赤くなって そっぽを向いた。

その瞬間、俺はにやりとした。

今までの様子からして 明らかにヒバリの様子がおかしい場面がある。
赤くなったり慌てたり。その場面にはかならず たけしが関係していた。


(あぁ、そういう事か...)

二人が可愛いらしくて 思わずふふっと笑みを漏らした。
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