コトダマ
ティータ+マナリル+リウ
「魔導に呪文ってあるの?」
「呪文?」
書の部屋でマナリルに魔導の指導を受け、掌に炎を浮かべるティータが、ふと思い付いたように言い出し、マナリルは小さな目を瞬いた。
「うん呪文。マナリルさん前に呪文使ってたの見たから」
「あれは……書の読み手としてのもので魔導とは違うものだと思います」
「そっか、違うんだ」
少し残念そうに俯く。
炎が揺らぎティータは慌てて集中力を立て直した。
その様子にマナリルは微笑んで、そしてティータの掌の炎を見つめ、そしてティータの方に向き直った。
「ティータさんはその炎を普段どうやって出していますか?」
「え?えっと、頭ん中でイメージしてバーッて出すって感じかな?」
「もしかしたらそれがティータさんの呪文かもしれませんよ。言葉がイメージとなって唱えられ魔導を発しているのかも」
「分かるような分からないような……」
魔導は使えれど魔導の理解力が乏しく知識が浅い為なのか、軌道の読みやすい炎の弾しか放てない為、ティータはマナリルから魔導の指導を受けるようになった。
それまでマナリル達に会う迄は、直感的に魔導を放っていたのかもしれない。
その指導あってか、ティータは短期間で様々な魔導を身に付けていったのだが、それがどういった形で放っていたのか、今更ながらに気になった。
「個人差はあると思います。同じ魔導でも国が同じだけど、魔導兵団長アスアドさん達が使う魔導と読み手である私が使う魔導の発し方。そして……」
マナリルがティータから視線を外し、入口の方へと視線を投げる。
そこには同じ書の部屋にいるルオ・タウと不機嫌そうに会話するリウの姿。
「今一番私が興味ある方。その身に書を宿し、種族故なのか秘枢たる線刻の書だけなのか分かりませんが、私以上に書を思うが侭コントロールし尚且つ強力な魔導を操るリウ・シエンさん」
「あー……ここでゼノアさん並に強い人だよね」
そう言ってティータは掌の炎を握り潰すように消して立ち上がり、リウの方に駆け寄った。
予想していたのかそう仕向けたのか、マナリルはそのままティータを見送った。
「だから何度も申し上げるように一人で勝手に出歩く真似は―」
「一人でないと考えられるものも考えられないんだよ」
「何時も探し回る私とレン・リインの身にもなって頂きたい」
「行き先はナハトに伝えてあるから先ずナハトに聞け」
「最近伝えられてないと聞く」
「だったらお前の書物探索機能でも駆使して探せ。そして砦内にいると分かれば探すな一人にさせてくれ」
「リウ・シエン!」
「で、ティータ」
「は、はいっ!!」
「さっきから何か言いたそうにしていたみたいだが?」
「えー……と」
駆け寄った迄は良かったが、話し掛けるタイミングが掴めず、それよりも話し掛けても良いのかと硬直していたティータに、当の本人がとっくに気付いてしかも名指しされた事に困惑し、何を聞くべきかも頭から飛んでしまって言葉に詰まった。
その様子を見たマナリルは可笑しそうに微笑みながらティータに助け舟を出した。
「リウさんは魔導を使う時にどのようなイメージをしているのか、呪文等は使っているのかと聞きたかったようです」
「あぁ、成る程。勉強熱心だなティータは。……どこぞの補佐にも見習わせたい程の熱心さだ」
「……っ」
また、ティータは言葉が詰まった。
勉強よりも興味本位で聞いてみようとしたとは言えなかった。
「そうだな、俺の場合は……言霊、か」
「言霊?」
それまで微笑んでいたマナリルの笑みも消え、ティータ同様にリウの言う言霊に興味津々に次の言葉を待った。
「言葉と云うものは思うよりも強力なものだ。身に覚えはないか?バランダンから褒められた、トッシュから勇気付けられた励ましてもらった」
「あー……あるようなないような」
「その言葉に特殊な念を込め言葉の意味を理解し、そして謡にする。後は頭の中で謡を唱え魔導を発動させる。これが言霊―そんなところか?」
なぁ、と隣に立つルオ・タウに視線で問う。
ルオ・タウは無言で頷いた。
「その言霊も集落から伝わったものだからな。さっきマナリルが言ったように国種族の違いがあるだろうが」
「へぇ……謡って例えばどんなですか?」
リウは少し考え込み天井を仰ぐ。
『……吹き荒べ』
「……リウ、・シエン?」
ルオ・タウが目を見張り、一歩後ずさる。
『風よ風吹き荒べ
空は暗雲招いて
太陽は二度と大地照らす事無く
絶望悲しみ恐怖恐れ畏怖纏いて
塵芥遺す事無く
全てを飲み込み吹き荒び
爆ぜるがいい』
「リウ・シエン……!」
「殲滅の旋風」
発せられた魔導がルオ・タウを襲う。
一瞬の出来事にルオ・タウはその場に伏した。
その惨状にティータとマナリルは言葉無く呆ける。
「とまぁ、こんなところか。マナリル、この馬鹿の手当て頼む」
「はい、分かりました……」
「じゃあ、部屋に戻る」
「あ!えとお話有難うございました!」
「私も興味深いお話が聞けて勉強になりました」
リウは頷き、そして静かに部屋を出て行った。
マナリルは未だ伏した侭のルオ・タウの側に膝をつき暖かい回復の光を当て傷を癒していった。
「ねぇマナリルさん、さっきのリウさんの話……」
「えぇ、私達では無理でしょう」
「やっぱり」
少しは出来るだろうかと期待したが言葉の理解と念を込め更に謡にすると云う言は恐らくリウにしか満足に扱えない。
以前ナハトからリウは集落を飛び出していた事もあってそれ以降の魔導は独学だというのも、マナリルは聞いていた。
「でもリウさんかっこよかったね!」
「そうですね、ティータさんも今は無理でもいずれ出来るようになるかもしれませんね」
「そしたらお父さんのお手伝いもっと頑張れるかな?!」
「それは必ず」
「だからマナリルさん!もっと魔導の事、教えて下さいね!」
「私で良ければ」
幼い少女が笑みを零し、楽しそうに和気藹々と盛り上がる。
楽しく心躍ったマナリルの手から発せられる光は、ルオ・タウの傷口から少しだけずれていた。
了
後書き
志方さんコワレロ中毒でリピート聴いていたら、黒リウに歌わせたいな、と思い立った揚句、書いてしまいました。
マナリルは本編より少し年上っぽい感じという事で……本当は喋り方が分からなくなっただけ……
ルオ・タウは最後まで哀れにさせてみようと思いました(笑)
091016