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「ん…っ…」


眩しい。

そう思って目を開ければカーテンを閉めているのにも関わらずちょっとした隙間から光が差し込んで私の目に当たっていた。

それより、昨日何時に寝たっけ?

リョーマの部屋に来て、温もりを感じて、…それから…?

バッと横を見ればリョーマが私を抱き締めているような形でぐっすりと寝ていた。本当に…離れないでいてくれたんだ…

それを嬉しく思えばクスっと笑って頭を撫でる。けれど時間も時間だ、起こさないであげたい所だけど学校があるから起こさなないと。


「リョーマ、起きて」

「後5分…」

「起きないと遅刻しちゃうよ?」

「ん、…わか、った…」


ゆっくりと目を開ければ起き上がり、大きな欠伸をする。

可愛い。


「リョーマ、おはよう」

「おはよ、えりな」


私にだけに言っている挨拶。

嗚呼、幸せだ。


「…えりな」

「ん?」

「目、腫れてる。」

「んぅ…」


昨日と同じ様に顔を近付ければ頬を優しく撫でてくれる。親指で目に触れればそっと離れて、寝起きの暖かい手で目を塞いだ。

ホットアイマスクのつもりなのかな。っていうかリョーマって意外にも女の子と近いの恥ずかしがらないよね。グイグイくるし…アメリカ育ちってこんなもんなのかな?


「…少し、良くなるかな」

「うん、優しさで腫れも引いちゃうね」

「…そっか」


手を離せば、目を開き前にいるリョーマを見る、朝日に照らされてふわりと笑うリョーマがいて、思わず抱き付いた。


「わ、ちょっと!」

「へへ、充電!」

「何それ…全く…」


ポンポンっと頭を撫でてくれるリョーマ。剥がそうとしないリョーマは優しい。


「よし、充電完了!」

「やっとか…」

「リョーマ」

「ん?」

「ありがとね、大好き!」

「…ん」


口数は少ないけれど、ちゃんと優しい目でこっちを見つめていてくれる。

もう、止められない…想い。

何もかも捨てていいから、リョーマと一緒にいたい。


「んじゃ、用意してくるね」

「遅くなんないでよね」

「それはこっちの台詞!」


憎まれ口を叩きながらも、2人とも笑う。一旦自室に戻って、制服に着替えて準備をした。

身なりを整える為にドレッサーの前に座れば、ふとリョーマがポニーテール好きと言う事を思い出してポニーテールにしてみる。

何か反応あればいいな。

下に降りて、顔を洗い、ご飯を食べるために席につく。既にご飯を食べていたリョーマが顔を上げてこちらを見れば、一瞬動きを止めた。


「…ポニーテール…だっけ?」

「…うん」

「へぇ…いいじゃん。」

「本当?」

「ん、下ろしてたら邪魔でしょ。」

「素直じゃないな」

「……ポニーテール…か…」

「?」


何か考えるように呟けばまた黙々とご飯を食べ始めたので、私も不思議に思いながらも食べ始める。

それからお互いばたばたして何も話すことなく、通学路を歩いた学校に着けば授業を受けに教室に向かい、放課後までそれぞれ授業を受けた。


「やっぱりね」

「ん?」

「あ、夢咲先輩!ちーっす!」


放課後になってから、リョーマと一緒に部活のために放課後コートへと向かうと、堀尾くんたちがすでに着替え終わって何か話していた。

他学年の平部員たちはコート内ですでに打ち合っている。気合だけはあるっていうことかな。今からウォーミングアップやらなんやらあるってのに部長が来る前に始めちゃうなんてね。


「何がやっぱりなの?」

「あー、可笑しいと思ったンッスよ。」

「?」

「あの桃城って先輩、足を痛めてて実力の半分も出してなかったらしいッス!」

「あー、それか。」

「あー、それかって!っておい!越前、聞いてんのか?!」

「全然」

「なんだよ、夢咲先輩も越前も!まぁねぇ…1年のお前がレギュラーと互角なはずないよなあ」

「どうして?」

「どうしてってそりゃあ、やっぱりレベル高けーよ青学は!今だってレギュラーの先輩たち来てないみたいなのに、あんなうめぇもん。」


じゃあ堀尾くんもやればいいじゃん、って思ったけど口には出さないでおくか、1年は1年なりにどうしていいかわかんないことなんて山ほどあるよね、ましてやここはテニスの名門校なわけだし。


「そのレベル高い学校の先輩に1年たかってるやつがいれば名が廃るってもんよ」


そう少し大きな声で言えば、そばかすくんたちがくしゃみをしてこちらを見たのでとびっきりの笑顔で笑ってやった。


「言いつけとこ」

「えりなってさ怖いとこあるよね」

「そう?」


堀尾くんがまだウンチクを話しているので、リョーマと二人離れる。それでもまだ聞こえる堀尾くんの声。

頭に響く声だな…


「まーだ、話してるよウンチク」

「いるよね、ウンチクばっか凄いやつ」

「悟ってますねー、リョーマさん」

「何そのキャラ?」


後ろから近づいてくる足音に気が付いて振り向けば、少し長めの髪にヘアバンドしてる男の人がいた。

こいつはわかるぞ、荒井だろ荒井。

息切らしてるし、練習してたのに態々来たの?暇人なのか馬鹿なのか…


「『凄い1年』ってお前か?」

「凄い1年…」


吃驚するくらい睨みをきかせて聞いてくる荒井。本当に性格悪そうな顔してんな…。リョーマは当然首を横に振れば堀尾を指さして凄い1年を教えた。


「あいつか…なるほど、1人派手なウェアで目立ってやがる」


ウェアくらいなんでもいいだろうよ。好きにさせたれよ、なんて思うけどなるべく関わりたくないので黙っておけば堀尾くんたちのほうにズカズカと歩いて行った。


「今のって堀尾のことだよね」

「今のはリョーマの事だと思うな」

「そうなの?」


堀尾くんたちのもとへ行ってしまった荒井が気になり、見てみるとものの見事に絡まれていた。

こういう人がいるから、新入生がビビッて運動部に入部しないんだよね。桃みたいにフレンドリーになれないのかね、まったく。


「…あれで2年なんだから、3年になったら…おっそろし」

「あーはなりたくない」

「リョーマには似合わないからやめてね」

「それってどういう事?」

「雑魚臭漂うってこと。」

「…なるほどね」


ザッザッザっとコートに近づく足音が聞こえると、平部員たちは一斉に練習をやめ、足音のする方を見る。


「レギュラー…」

「来たぁああ!!レギュラー陣!!」


1年たちが手塚くんを抜いたレギュラー陣の登場にわぁああっと歓声をあげる。

うん、確かに…オーラに近い何かはある。


「「ちーっす!!」」

「じゃあリョーマ。挨拶してくるよ。」

「ん、わかった」

「英二!周助!お帰りなさい!!」

「えりな−!!ただいま!」

「ああ、えりな。ただいま。」


リョーマと別れてレギュラーのもとに行ってまず友達である、英二と周助に挨拶をすれば英二は満面の笑みで抱きしめてくれた。


「ちょっと苦しいよ…、挨拶しなきゃいけないし離して?」

「あ、わかった…」


英二がしぶしぶ離してくれて、副部長である大石くんと向き合う。


「キミは…英二が言っていた…」

「竜崎先生に言われてマネージャーになりました、転校生で3年の夢咲えりなです。」

「俺は副部長の大石秀一郎だ、よろしく。やけに3年ってとこ強調するね…」

「ふふ、いろいろあるんだよえりなには。転校早々ね?」

「もう、周助!」

「ごめんごめん、改めてよろしくね。」

「ん、よろ!時間とらせてごめんね。あとは、手塚くんが来てからまた挨拶させてもらうよ。練習して?」

「すまないね、俺たちも打っておくか」

「ほいほーい!」


テニスバッグからラケットを取り出して練習の準備をし、位置につく。

ポーンと大石くんがロブをだし…


「ほいっ!」


英二がスマッシュで大石くんの隣にあるボールの入ったかごに入れる。

凄い…!


「次は僕」


周助も同じようにしてスマッシュをし、正確にかごの中に入れていく。


「不二、ステップが遅れたぞ」


ちゃんと見ている大石くんもすごい、それにもう一度周助がスマッシュしたときちゃんと注意されていた箇所が直っていた。

これがあの漫画やアニメで見た練習風景か。本当に吸い込まれるようにしてかごに入っていく、気持ち悪いくらいに。


「えりなー!!」

「わ、英二!」

「どう?どう?凄い?」

「うん…凄すぎ…!」

「へっへーん、こうやって歓声貰うのすっげー気持ちいい!」

「でも…」

「ん?」

「リョーマだって…」

「え?」


レギュラーの練習の様子を見ていれば後ろからいきなり抱き付いて来た英二は褒められて嬉しそうに笑う。

英二も…みんなも確かに凄い…けれど


「あ、しまったでかい」


大石くんがロブを失敗して大きく上げてしまったのがリョーマの方へと真っ直ぐ飛んでいく。

それをリョーマはスマッシュして、レギュラー同様かごの中に入れてしまった。


「案外簡単だね」

「へぇ…」

「リョーマもすごい!」

「えりな、うるさい。」

「英二も周助もリョーマも、凄すぎる!」


やっぱ青学最高だよ!!


「やっぱてめぇだったのか!!舐めた真似しやがって!!1年生がしゃしゃり出る場所はねぇんだよ!」


荒井がリョーマのもとへやってきて、リョーマの胸ぐらを掴みあげて怒鳴る。

何してくれちゃってんの!!


「あっちゃー…荒井1年に絡みすぎーって…ちょっと?!」


英二の腕から逃げ出して荒井のもとに行きリョーマの胸ぐらを掴んでいる腕を力いっぱい掴む。


「やめなよ、自分の出番ないからって無理矢理作ろうとしない!」

「うわーえりな、1番言っちゃいけないこと言ったよ…すっごい力で腕、掴んでるし」

「う、うっせぇ!てめぇも1年だな?!敬えよ!」

「あ…馬鹿!!荒井!!」


荒井を止めに入ろうとするそばかすくん。

遅い、から


「…3年だって言ってんだろ、ヘアバン野郎…!!似合ってねぇから!!」

「やっぱ、えりなって面白いね」

「コート内で何をもめている」

「手塚…くん…」

「ぶ、部長ー!!」


人一倍オーラのある人が入って来たと思えば、その人物は当たり前だが部長である手塚くんだった。

近くでみたら、本当にイケメンくんなんだな。

人気あるの納得しちゃう。


「騒ぎを起こした罰だ、そこの2人と…部外者か…?1年女子、グラウンド10周!」

「今……なんと…」

「ひい!やばいよやばいよ!!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ…こいつが…」

「20周だ!!」

「は、はい!」

「だから!!今!!なんと!!」

「聞こえなかったのか?」

「聞こえてたわ!!!私は部外者じゃなくてマネージャー!!1年じゃなくて3年!!」

「そう…だったのか…すまない。」

「もう…やだ、泣いた。私泣いた。」

「ふむ、手塚が女子を泣かせるとはな。データに加えよう。」

「とにかく、私は悪くないから走らないし、部外者じゃないからここにいるし、1年じゃないから敬語も使わない、夢咲えりなです!!よろしく!!」

「拗ねちゃって、一緒に自己紹介までしちゃってるにゃ…」

「本当にすまなかった。部長の手塚国光だ、よろしく頼む。」

「許す…、えりなって呼んでね」

「いや、名前で呼ぶのh───」

「えりなって呼んでね」

「はは、物凄い圧力があるね。俺は河村隆、よろしくね、えりなちゃん」

「タカさんいい人過ぎた、泣いた。よろしく」

「今日、えりなには覚えてもらうことが山ほどある」

「おっけーい、任せてよ手塚くん。覚えはいい方よ!」

「ああ。全員ウォーミングアップ!済んだ者から2年3年はコートに入れ!1年は球拾いの準備につけ!以上!」

「「「はい!!」」」


さぁ、マネージャー業頑張るぞ!


「めんどくさいこの上ない。」

「…………」


テニス部に近付けたのはとっても嬉しい、特等席でリョーマを見れるじゃないか。

だけど、こんなにも量が多いと私はリョーマを見れない。そんな暇が1秒もない。っていうかなぜ私以外にマネージャーがいないのだろうか。おじさまの息子と居候が青学に来る、しかも息子の方は入部と来た。なら居候はマネージャーをやらせようっていう魂胆だったんだろう、今ならわかるぞ。マネージャーがいない運動部は、思い通りに活動できないっていうよね。

だからマネージャーが入ってあれもこれもって言われるのはわかるけど、全員の分をやってるとしんどい。リョーマを見れない。

はい、困ったー、えりなさんとっても困ったー。

どうしようか。


「あ、そうだ」

「?」

「レギュラーのみのマネージャーでいい?」

「は?」


手塚くんに練習返上で仕事を教えて貰ったのに悪いが、どう考えても1人でこなす量じゃない。


「1年生は動けるし、平部員もレギュラーも困らない。寧ろレギュラーはマネージャーがいるから動きやすい。」

「まぁ…そうだが…」

「じゃあ、問題ない。だけど1つだけ平部員たちも見とくよ。1年を虐めてないかね。」

「そんなものうちにはないと思うが」

「いやいや、甘いですね手塚さーん。この間そばかすくん達1年からお金巻き上げようとしてたよ。テニスコートで。」

「…そういうことがあればすぐに俺に報告しろ。」

「はーい」


ニヤリ。

これでそばかすくん達も大人しくなるだろうし、英二の真似なんてしないよね。


「えりな、遅くまですまなかったな。もう帰ってくれて構わない。」

「ううん、教えてくれてありがとう。じゃあ帰るね、ばいばい」

「気をつけて帰れよ」

「はーい」


パパみたいだなーなんて思いながらテニスコートで手塚くんと別れて帰路につく。

既に空は暗く、もう夜だが手塚くんはあのまま自主練をするのだろう。

ズキンッと胸が痛んだ。







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