短編2
□8代目はくしゅ
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真っ暗な夜道。
街頭は一定の距離を保って僅かな光を放つ。
私はそんな中を歩いていた。
特に何かをしていたわけでもない。
用事なんてものはなかったし、帰る時間は早くたって遅くたって構わなかった。
ただ、家から出たかった。
有り得ないと分かっていても、希望を持たずにはいられなかった。
そうして、散歩という名目で外へと出た。
春も終わりに近付き、夜に出歩いてもさほど寒くはない。
しかし、時折吹く風が少しだけ寒さを感じさせた。
まだ春は終わっていないと言わんばかりに。
何も考えずに上着も持たずに家を出たのは失敗だったかもしれない。
ぼうっとただ考えながら行くあてもなく歩き回る。
静かに響く自分の足音。
そしてそれと同じリズムを刻む少し後ろにある足音。
誰かいる。
背後の足音が少しずつ、また少しずつ距離を縮めてくる。
次の瞬間。
ふわりと何か暖かいものが私を包んだ。
「え……っ?」
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