朝食はクリームチーズに、たっぷりのブルーベリーを載せたマフィン。それからピーベリーの豆で煎れたエスプレッソ。
美味しいエスプレッソがどうしても毎朝飲みたいと、あたしはあの頃、一成に毎朝のように話していた。
一成は新聞を広げて、経済記事に難しい顔を向けながら、はいはい、と相槌を返す。
「だけどどうしても欲しいのよ。毎朝駅前の珈琲スタンドまで買いに走る労力とか手間とかお金を考えたら」
一成は新聞から目を離し、それからあたしを見て、それ以上は言わなくていいよ、と目で語るのだ。
「だから結希はさ、あの角の珈琲屋に置いてある、アンティークっぽいエスプレッソマシンが欲しいって言うんだろ」
あたしは駅前の珈琲スタンドで買ってきたエスプレッソの苦味が喉元を過ぎていくのを感じながら、うん、と頷いた。
一成は、俺には難しい感覚だね。と言って、だけどそこに太陽が生まれたように明るく笑うと、再び新聞に目を戻した。